第一章 1
とても深い、しかし微睡みのような小さな眠りの中、懐かしいような、暖かいような、そんな声が聞こえてくる。
「……ルキウス! 起きろーーって、あ、起きたっ」
目を開けるとそこには、ベッドに横たわるオレ、ルキウスを優しい表情で見下ろすオレンジ髪の少女の顔があった。
しかしその表情もつかの間。
「もう! いつまで寝てるの! 早く準備して!」
(準備……? 一体ナッ!?)
思考をこらすと激しい頭痛がルキウスを襲った。
原因はわからないが、どうやら記憶が混濁しているようだ。
「あ、ああ……すぐ行くよ、ルチル」
口を開くと自然に彼女の名がこぼれた。
そう、彼女の名前はルチル。
オレが小さい時からよく遊んでいた幼馴染。
ついでに、オレの「家」である孤児院、つまりいまオレが寝ている部屋のあるここ。
その孤児院が建てられている小さな、けれど自然豊かな緑の村「ウル」の村長の娘でもあったりする。
(そういえば準備、と言ってもなんの事だ? どうやらルチルと何か約束をしているようだが……)
「はぁ、わたしはもう準備できてるから。 いつものところで待ってるね」
そういってルチルは部屋から出て行く。
オレはベッドから起き上がるも、何か体に違和感を感じていた。
普段から村の大人たちの仕事の手伝いをしているから同年代の中では引きしまっているほうだとは思う。
しかし、何かが違う気がする。
服を着替え、孤児院の外にある水飲み場で顔を洗いながら頭の整理を始める。
名前はルキウス。
小さな頃に両親を亡くし、この孤児院で面倒を見てもらっていた。
孤児院を経営しているマ……。
脳に針を刺すような痛みが走る。
(……駄目だな。 今は考えないほうが身のためか)
タオルで顔を拭き終わると迷いなく孤児院の裏側に歩を進める。
ルチルが言う「いつものところ」。
そこには何となく想像がついていた。
オレはルチルが待つであろう丘のふもとへ向かった。