ボーナスは剣術修行で
2020年11月7日指摘されていた中でも特に致命的だった修行年数の計算間違いを修正しました。
報告ありがとうございます!
ある日、目を覚ましたらそこは見たことのない場所だった。
丸く縁どられた白い地面、真っ暗な空間にぽつりとあるそこは時間に置き去りにされたような場所だ。
目の前には大きめの机と目の下に大きなクマがある疲れた顔をした女性。
多分美人だと思う、ちょっとくたびれすぎて疲れた未亡人のように見えるけど。
ぼさぼさの髪をがりがりと掻きながらその女性は、ん……とこちらに気付いたようだ。
「おはよう、ようやく起きたね。君なんでここにいるかわかる?」
「わからないです……ていうかここどこ? あなたは誰?」
真っ暗で景色の一つも楽しめないけど、夢?
「ここは死後の世界。あなた死んだのね。で、私は神様。神様のメチル様。理解した?」
女性はそう言い放った。
「あー……へえ……」
「む、信じてないでしょ。本当だよ、名前とか住所とか死亡理由とかわかるよ。言おうか?」
「名前……」
ふと自分の名前を思いだしてみるが、脳内に靄が掛かっていてよく思い出せない。
「……おや、もしかして名前とか覚えてない感じ?」
「いや、こう……喉のこの辺までは出てきてるような気はするんだけど」
「うん、わかった。それ出てこないね。ともかく、話戻すけどこれからあなたには新しい世界に行ってもらいます」
「新しい世界に?」
「ええ、ちなみに、次は多分魔王のいる世界のどれかかな。どの世界にいけるかは私の上が決めるから直前までわからないけどね。そういうのは不正の無い様にってなってるから」
「魔王って……ゲームとか物語に出てくるようなあれ?」
「そうよ、どうやら一般常識は覚えているようね。自分の事とかの記憶に欠損がある感じか、たまにいるね。まあ、あなたみたいな人生を送った人が多いけど」
「俺みたいな人生って……どんな人生だったんだよ」
疑問に思ったが神様は構わず話を進めていく。
「まあまあ、それで次の世界に行く前にあなたにボーナスをあげよう」
「ボーナス?」
「そう、あなたのいた世界って魔王とかいなかったしさ、いきなり魔王のいる世界ってきつすぎるでしょう? だからボーナス、一つだけ願いをかなえてあげる。特別な武器が欲しいとかそういうの」
「へえ……なんか面白いな」
武器? いやでもそれを扱えなければきついし、万が一それを失くしたらどうにもならないよな。
魔王のいる世界なら。
「じゃあ剣の修行をさせてくれ」
「剣の?」
「ああ、魔王がいる世界ってことは戦う力さえあれば何とかなるだろ?」
「良いよ、でも面白いね。武器とかチートアイテムを欲しがった人はいても剣の修行をさせてって言った子は初めてかも」
パチン……と女性が指を鳴らすと楕円形の空間が現れた。
「私があなたを向こうの世界に送るための準備を終えるまでで良い? 流れとしたら上に書類の提出したら上から世界の詳細が返ってくる。それから向かうって感じだからちょっとの間だけど」
「それって修行にならなくないか。すぐ終わるんじゃね?」
「この中は時間の概念が違うの、ここでの1分が向こうでは5年」
「おお、それは凄い」
「でしょ? そして向こうにはケンジ君がいるから修行にはもってこいよ」
「ケンジ君?」
誰それ。
「色んな世界の剣神と呼ばれた人達のデータが打ち込まれた最強の機械、通称ケンジ君よ。君みたいな子なら大体難易度5をクリア出来たら十分かしらね。剣とか必要なものは向こうに全部あるから、まあ頑張ってきて」
「ちなみに肉体とかってどうなるの? このまま次の世界に行くわけじゃないんだろ?」
「そうね、一応仮の肉体でってなるから使えない技とかも出てくるかもしれないけど、技術自体は覚えてるから大丈夫だと思うよ」
「なるほどね、了解」
「こっちも準備終わったら迎えに行くから」
「ふーん、ありがと」
俺は空間に入った。
☆☆☆
神様視点
「やれやれ、さて、三日間起きてて疲れちゃったな。書類も提出し終わったし返ってくるまでちょっと休憩しますか」
時計に3分のタイマーをつけて私はちょっと眠りについた。
「んむ……」
涎が頬を伝ったところで私は目をこする。
「ついついマジ寝しちゃった、って……きゃあああああああ!」
私は時計をマジマジと見る。
やってしまった。
3分どころか五時間経ってる、彼帰らせてないよね?
やばい、超やばい。
5時間ってことは1500年も向こうに行かせてる。
人の寿命って大体100年だったよね。精神って何年目から壊れ始めるっけ? 送る前から精神崩壊してない?
「あわ、あわわわわ……まずい、まずいまずいよおおお……書類はもう来てるって……ええええええ!」
私は上から来た書類に書かれている世界を見てさらに驚愕したが、まず彼を迎えに行くことにした。
「ごめんなさい! うっかり私眠っちゃってて! ってあれ?」
異空間に来るとケンジ君が見えた。
ただ身動き一つしない。
そしてその隣ケンジ君に背中を預けた状態で彼が座っていた。
「あー、神様。久しぶり。500年ぶり?」
良かった、意識は大丈夫みたい。
「ごめんなさい! 私うたた寝しちゃって、1500年もあなたをここに置き去りにしちゃった」
「1500年!?」
「ご、ごめんなさい! 本当に」
「……ま、別にいいよ。その分役に立つ修行出来たし。ケンジ君の難易度設定も全部終わらせたしな」
「どう謝れば……ってえええ」
か、軽いわね。生前とちっとも変わらないわ。記憶を失っててもそういう内面は変わらないのかしら……ってちょっとまって。
「終わらせた?」
バッと見ればケンジ君の難易度メモリが100で止まっている。
ケンジ君は電池が切れたわけじゃない、全てを終わらせたから止まっているのだ。
「嘘でしょ……信じられない……」
「それで、次の世界はどんな場所?」
はっとして私はさらに平謝りする。
「そ、それなんだけど……」
私は紙を彼に見せる。
「魔王のいる世界で……え、魔力偏重の世界?」
「そう、だから今回頑張った剣術は役に立たないかも……」
がっかりするかな、怒るかなぁ……とちらっと見ると彼は少し唸ってから。
「ちょっとびっくりしたけど、それなら仕方ないな。剣術だって何か役に立つかもしれないし、頑張ろうかな」
「ま、前向きね……。私としてはその反応は助かるけど、自信はあるの?」
「ない! けど剣術は覚えたし、その世界に行ってからどうにかするよ」
彼は朗らかに笑った。
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