魔法の授業 1
五つ葉の城へ戻り、部屋へ這入った。ランベールさんはわたしを椅子へ座らせ、息を切らしてついてきたヴァグエット先生を、もう片方の椅子へ座らせた。
「授業を」ランベールさんは、テーブルへ置かれた本の表紙を、指先で叩く。「時間がない。たったの二週間だ。二週間で軍を編制して、装備を調え、王都を発つだけの準備をしないといけない。あめのさまには二週間で魔法の基礎や、禁忌について、しっかりと学び、覚えて戴く。ヴァグエット師、腕の見せどころだ」
ヴァグエット先生はまったく怯えていて、激しく頷き、本やノートを開いた。
ランベールさんはわたしのすぐ傍に立ち、コランタインさんが扉のまん前で仁王立ちしている。なにかしらの場合に備えて――――それがなんなのか、くわしく教えてはもらえなかったけれど――――、廊下にも数人、兵が居る。
ブライセさんがお茶と、ひとくちサイズのドライフルーツを持ってきてくれた。わたしはお礼を云うが、勉強しながらなにか食べるのは難しい。不器用で、食事となにかを一緒にできないのだ。
ヴァグエット先生の授業はとても丁寧だった。
まず、簡単に、今からなにについて授業をするか説明があって、授業にはいる。わたしは渡された、しっかりした装丁の、羊皮紙のノートに、インクで内容を書きつける。初日だからか、複雑なことはない。
まずは、魔力について。この世界に常に沢山存在していて、〈器〉があるとそれをとりこめる。魔力は、神の力の一部、神の慈悲、だそう。それはなくなることはなく、循環し続けている。
〈器〉。これは、目には見えないが、内臓のようなもの。もしくは、内臓のどれかがそれであると同時に〈器〉でもある。心臓と〈器〉が同一のものとみなされることが多い。要するに、とりこめる魔力の差はあれど、人間にしても動物にしても、皆が持っている。勿論化けものも。
それから、〈器〉を大きくする方法のこと。
化けものを倒す、ひとを倒す。これが一般的。ただ、倒す、は、殺す、ではない。
例えば、なにかと戦って撃退しても、〈器〉を奪える可能性はある。ただしその場合、相手の精神に大きなダメージを与えている必要がある。つまり、負けを認めさせる、ということ。まったく攻撃をしなくても、相当怯えさせて逃がせばいい。
化けものはあまり怯えないから、それは難しいし、時間がかかるからひと相手でも簡単にやる戦法ではない。反対に、化けものを退けたら、それは殺したのに匹敵する〈器〉を奪えたと思っていい。
もうひとつは変則的な方法で、譲渡してもらう。
負けを認める、と云うのに近いが、心から敬服し、数値を指定して譲ると云えば、譲れる。ただしこれは凄く難しい。当人が譲渡すると云っても巧くいかない時があるので、確実なやりかたではない。
「確実で国の為にもなるのが化けもの討伐です。〈器〉を大きくしたい者は、余暇で化けもの討伐をする。玉貨も稼げるというので、兵になりたいが〈器〉が基準に達しない若者は、化けものを討伐し、それで得た玉貨で宿に泊まり、装備を調えるとか。結局そのまま兵にならず、化けもの討伐で食べていく者もありますがね」
冒険者、かな。ゲームによく出てくる。
わたしはヴァグエット先生の話を書きつけ続けた。細大もらさずだ。どれが重要な話でどれがそうでないのかさえ、判断できる状況ではない。
暫くすると手がインクで汚れ、ペン先が潰れた。手を洗い、ペンをかえた。




