兄と妹 2
レディーヌさまへ追いついた侍女達が喚いた。全員、要約すると、レディーヌさまを責めないでほしい、と云っている。兵達がそれを向こうへおし戻した。
王太子殿下は冷ややかに妹を見る。レディーヌさまは肩を震わせていた。エドゥアルデさまは、その腕を掴み、ぐいとひきよせる。
それからにっこりして、しかし裏腹に、低声で云い放った。
「お前は物事をまともに考えられぬのか? 陛下が聖女さまだと認めた女性を疑うような真似をして。今度に関しては、僕はただでは助けられない」
「お兄さま……」
「サズニエール家にも累が及ぶかもしれぬのだぞ」
レディーヌさまは歯をくいしばる。顔色が相当に悪い。
王太子殿下は、まだ、低声で続ける。「いいか。領地をどちらも聖女さまへ差し出せ」
「そんな」
レディーヌさまは気色ばむ。「それでは、わたくしは、公主ではいられません」
「そう云うだけでいい。僕がとりなす。例えばある程度の玉貨をさしあげるくらいで、実際に領地を失いはしない。陛下がそうはさせないだろう。王家所有の土地を減らしたくはないだろうから。ただ、それでも、ジェラルディーヌには宮廷からの退去を命じる」
「いやですわ!」
「どちらにせよ、サズニエール家は彼女を勘当するだろう。そのようなものが公主の侍女を続けられるとでも? 適当な聖堂へはいるか、もしくは当たり障りのない縁組みをするかだ」
「それでは、ジェルが可哀相で……」
「ではお前が責を負うか? ジェラルディーヌは、本来殺されていて然るべく言動をした。お前がそれを全部背負うと?」
レディーヌさまは黙る。
エドゥアルデさまは、小さく鼻を鳴らした。
「ジェラルディーヌには適当な聖堂か、よい縁組みを手配してやる。これ以上下らぬ邪推で僕の邪魔をするな。お前が聖女さまに疑念を持ったと云うだけで、僕のやることの妨げになる。お前は貴族らに、ありもしない疑惑の種を与えたのだぞ」
「わたくし、そのようなつもりは……ただ、聖女さまというのは、灰色のお髪で」
「それは聴き飽きた。昨夜大書庫で調べさせたが、お前の云うような聖女さまは半分程度だ。なかには見た目についてなんの資料も残っていない聖女さまも居る。有名でない、記録の少ない聖女さまが。有名でないが世を救い、人々を救った聖女さまが。そう云う功をたて、かつて我が国を救った聖女さま達も、お前は否定するのか? 髪の色や目の色くらいで?」
レディーヌさまは顔を歪め、俯いて目許を覆った。
ランベールさんがわたしの手をとって、五つ葉の城へ向けて歩き出す。わたしは慌ててついていった。転びそうになって、とっさに身体強化の魔法をつかった。
「ランベールさん……」
「二週間しかないというのに、邪魔をするとは、公主さまには呆れかえる」
ランベールさんは低声で云い、ちらっとこちらを見る。「あなたも、なにも遠慮することはない。確実に聖女なのだから」
「そ……なんですかね」
「なにを疑うのだ? わたしはあなたのように無茶な魔法のつかいかたをして、気絶もしない者を、ほかに知らない。魔法文字を六つも七つもつないで平然としている者も。聖女でないというのならなんなのか、議論をすべきだな。あなたが反論できるならだが?」
そもそも、魔法をつかえる自覚もなかったし、そういうものはお伽話のなかにしかないものと思って生きてきたのだ。もとの世界では、魔法をつかえる知り合いはいなかった。
だから、わたしが聖女でなくばなんなのか、について、議論する程の材料がない。つまり、反論できない。
わたしは黙る。兵達が追いついた。




