政治的なあれこれ 1
ランベールさんはもう一度左手を胸にあてる礼をして、こちらへ歩いてくる。王室護衛隊の兵達がぱっと、ばらばらの方向へ走っていった。
例の、陶器か磁器でできたような、やけに大きな建物が見えるのに、その時初めて気付いた。わたしは相当に緊張している。手許くらいしかきちんと見えていなかった。
建物はドーム型だ。巨大な陶器のボウルが伏せてあるみたい。ただ、てっぺんの辺りくらいしか見えない。そのまわりを囲うように、高さ10mから12mの、建物がある。回廊……なのかもしれない。いびつな形だから、表から続いているのだろうか。それから、塔や、所謂「お城」が幾つも見える。なんというか……子どもが建物のおもちゃを寄せ集めて、はこにわのなかにめったやたらと並べたみたい。
ランベールさんは優雅に、わたしの前に片膝をついた。
「あめのさま、おはようございます」
わたしは口のなかでもごもごと、おはようございます、と云う。ランベールさんは重力を感じさせずに立ち上がり、ヴァグエット先生達へ目を遣る。「ヴァグエット師、マルス師、タリエル師。あめのさまの専属になると聴いた。なんぞ、あめのさまに対して無礼があれば、わたしかわたしの部下へ報告するよう」
「は……はい」
同意を示したものの、宮廷魔導士三人は、かなりびくついていた。何故だろう。
ランベールさんは満足げに頷き、ロッルさんを見た。ロッルさんは、慌てた様子でこちらへ走ってくる。
「ラクールレル隊長」
「お前には失望した」
ランベールさんは、ロッルさんをまっすぐ見たまま低声で云った。ロッルさんが首をすくめる。
「申し訳も……」
「聖女さまに女を近寄せるなと、王太子殿下、そして陛下の命だ。それを違えたのだぞ」
「しかし、公主さまが」
「お前はなにも考えておらぬのか?」ランベールさんはぐっとまじかみをたてた。「公主殿下は女だ。もうひとつ云えば、公主というのは聖女さまと違って、そうあるべくしてあるのではない。陛下が、或いは王太子殿下でも、場合によっては剥奪できる称号なのだぞ」
ロッルさんが息をのんだ。ランベールさんは同じトーンで続ける。
「公主殿下といえども、王太子殿下や陛下の命令をないがしろにしたとあらば、領地返上はありうる。領地がなくば、公主は公主たり得ない……しかし、今度のことでは、公主殿下はそこまでお咎めはないだろう」
ロッルさんが一瞬安堵の表情を見せた。だが、ランベールさんの次の言葉で、まっさおになる。
「何故なら、本来停めるべき立場のお前達や、侍女が居る。ついでに云えば、侍女はあめのさまに対して大変に攻撃的だった。侍女が公主殿下に軽率な行動をとるよう仕向け、お前達は黙認したか一緒になってそそのかしたかだと判断されるだろう」
「そんな!」
「嘆くのはお門違いではないか? お前が責務を果たしていれば起こっていないことだ」
ロッルさんは相当ショックをうけたみたいで、よろける。宮廷魔導士三人も、顔色が悪かった。エーミレさんとツェレスタンさん、侍従ふたりは小さく頷く。当然だ、と云わんばかりに。
「ラクールレル隊長……自分は、公主さまには、そのような、諫言などは」
「お前は公主殿下を怒らせたくないようだ。では尋ねるが、聖女さまを怒らせたいのか?」
ランベールさんこそ怒って見えた。
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