船に揺られて護送中 1
目が覚めたのは、多分朝。
船室からは出られないし、阿竹くん達にも会えない。会えますかと訊いたら、わたしを見張っている兵が頭を振ったから。
どうしても会いたい訳ではない。昨日の阿竹くんの言葉はまだショックだった。わたしはあのことは隠していたかった。
お風呂へはいりたくて、浴室へ行った。流石に兵達はついてこない。わたしは魔法で浴槽へお湯をため、服を脱いで、体と服を洗う。戸棚のせっけんは、半透明でいい香りがする。つめくさの花の香りだった。それで洗っても、肌がかさつくことはない。髪もきしまなかった。戸棚にあった、木製の柄に、豚毛らしいものが植わっているはぶらしで、歯も磨いた。
タオルで体を拭いていると、こんこんとノックの音がして、慌てて体にタオルを巻きつける。隣への扉には錠がついていない。たてこもることができないようにだろう。でも、今這入ってこられたら、困る。
「聖女さま、大丈夫ですか」
「……あ、はい」
生存確認だったみたいだ。わたしは、見える訳もないのに頷いて、魔法で乾かした服を身につけた。魔法、とても便利だ。
髪も魔法で乾かして、手櫛で整えた。ブラシがほしい……鞄にいれていた。その鞄がない。
浴槽の栓をぬく。床の排水溝に、お湯が吸いこまれていった。気になったので、ざっと浴槽を洗う。スポンジはないが、体を拭いたタオルがあるので、それにせっけんをこすりつけ、スポンジがわりにつかった。
浴槽を洗って、タオルをゆすぎ、魔法で乾かした。戸棚へ戻す。手がかさついたらいやなので、魔法で手を綺麗にする。……自然につかっているけれど、体に害があったりはしないのかしら?昔の聖女は、長生きしたと、聴いたけれど。
浴室を出る。兵ふたりと、ランベールさんが居た。
わたしはなんとなく、会釈する。途端に、三人とも片膝をついて、深々と頭を垂れた。わたしはびくびくしながら、そーっとソファへ座る。三人は立ち上がる。聖女に頭を下げられたら、跪け、と、決まってるのかもしれない。
兵ふたりが外へ出て、ローテーブルを運んできた。いい匂いがする。ソファの前にローテーブルが置かれた。その上には、綺麗な磁器に盛りつけられたお料理が、沢山。多分、牛肉の赤ワイン煮込み、さいの目に切った野菜のマリネ、金色のスープ、新鮮なフルーツ。それからパンかごとパンもある。
申し訳なくなってきた。わたしは、おそるおそる、ランベールさんを見る。「あの……わたし、お肉もパンも、食べられません」
いい匂いで、おいしそうだが、アレルギーはいかんともしがたい。合い挽き肉と鶏皮をつかった餃子で救急搬送されたことがあるので、それ以来どれだけおいしそうでも、お肉には手を出せない。お魚や甲殻類でも死にかけたし、小麦に関しては一家揃ってだめだ。
安心して食べられるのは、お米、雑穀類、くだもの、野菜、豆類、くらい。
ランベールさんはちょっと眉をひそめた。
「お嫌いなので?」
「アレルギーで……」
「アレルギー?」
アレルギーが一般的ではないよう。わたしは言葉を選ぶ。
「あの。たべると、具合が悪くなります」
「……そうですか。さげさせましょう」
牛肉の皿とパンかごを、兵ふたりが運び出していった。かわりにご飯か、せめてお芋でももらえたら、ありがたい。
そう考えて自覚した。おなかがすいている。
わたしは戴きますと云う。フルーツは、桃と苺。桃は種をとってカットしてある。繊細な細工の、金のフォークで食べた。水分たっぷりで、歯応えがいい。
兵ふたりが戻った。寝る前とは違うひとだと、今更気付いた。名前は聴いていないし、多分覚えられない。
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