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とりあたま


 じっと待った。時間が経つごとに、沈黙は重苦しいものになっていく。

 わたしはなんともない。なんにもしない。彼らにプレッシャをかけるのは、会話がスムーズにすすむ為には必要だと感じた。緊張感みたいなものが、自分に有利に働いていると思う。

 重苦しい空気だとか、じっとりした沈黙だとかに対する受容体のようなものが、壊れてしまったのかもしれない。うっとうしいとは思ったが、だからはやく誰か喋ってほしい、こういう情況は耐えられない、とまでは思えなかった。そわそわもしない。マルツェリン卿やピエレ卿のほうが居心地が悪いだろう。

 戦闘が続いていることで神経がささくれだっていて、沈黙くらいどうでもいいのかもしれない。そういう些細なこと、ひとを傷付けたりひとに傷付けられたりすること以外のことは、どうでもいいのかも。

 もしくは、自分がこの場で一番偉いのだ、という安心感があるのかもしれなかった。なんにせよわたしは()()()()()なのだ。


 日が沈みだしている。空が赤い。従僕や侍従が慌ただしく動き、あずまやの出入り口付近にかがり火が点される。魔法の灯が、あずまやの天井近くに数個、飛ばされた。魔法の灯は白っぽい。

 ランベールさんが沈黙を破る。

「聖女さまのおっしゃることには、理がある。そろそろ我らがしかける番ではないか? マルツェリン卿、ピエレ卿」

「あ」ピエレ卿が魂をとりもどしたようだ。激しい瞬きがある。「いやその。それは、そのとおりかもしれません。しかし我らは、今まで、〈燃えさかる花の王国(ルゥク・ミングレイ)〉の者どもに、翻弄されてしまい……」

 マルツェリン卿がそれに頷いた。

「ああ……まったく、情けない話ですが、兵の鍛錬ができていません。それに、森の地形が……」

 ああ、成程。ふたりはそれを気にしていたのだな。

 わたしは苦笑した。いつだってこれだ。ひとつ覚えると、ひとつ忘れる。ひとつ救うとひとつ見捨てる。

 そして沢山殺す。


 森の地形がわからない、こちらの軍は地理に明るくない、というのは、これまでもずっと問題になっていたことだ。

 だから、簡単に敵を近寄せてしまう。

 だから、敵が逃げる時に追撃できない。

 だから、森の向こうにある白兵戦に最適の平原まで、なかなか移動できない。

「道はどれくらいできているのだ」

 ランベールさんがうんざりした声を出す。「粘りのある木が多く、伐採がなかなかすすんでいないと聴いているが? その状態のままなのだろうか?」

「あまり、芳しくありません」

 マルツェリン卿は率直だった。項垂れ、もごもごと続ける。

「まだ数十mできたかどうかだと……根が残るので、それをとりのぞくのにどうにも、時間がかかるのです」

「馬が利用できるような道なのだろう?」

「はい」

 マルツェリン卿はこっくり頷く。少し、誇らしげだ。

 しかしランベールさんは、かすかに顔をしかめた。

「そこまで丁寧につくらなくともよい。とりあえず、人間だけでも通れる道をつくって、森を越え、その先に砦を築きたい」声がかたい。「丁寧な作業はまったく、結構なことだ。しかし、今は必要ではないと思うのだが」

 マルツェリン卿は更に項垂れてしまった。


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