計測 1
儀式、ということでもないので、やりかたを説明されただけだ。
ヴァグエット先生が、ステレオかダストボックスのようなものを示す。木製に見えた。「これが下位コンバーターです」
ヴァグエット先生の声はもう震えていない。わたしは頷く。
下位コンバーターは石畳の端ににょっきり生えるようにあった。移動は不可能だそうだから、先に下位コンバーターがあって、そのまわりに宮廷が築かれていったのだろう。
外見は、ステレオか、ダストボックスか、小さめのジュークボックスか、という感じ。濃い茶色の木製に見える。1mくらいの高さで、横幅は70cmから80cm、奥行きは50cmくらい。上部は半円で、がらすらしいもののはまった半円の窓があって、その奥に温度計のような目盛りが見える。
ただし、目盛りは三重になっていて、数字は書かれていない。かすかに緑に光る点が針がわりみたいだ。一番上の目盛りはまんなかより左に点があり、まんなかの目盛りは右端に、一番下の目盛りは一番上の目盛りと同じような位置に点がある。
目盛りの下に、横に細長く、口が開いている。玉貨の投入口だそうだ。その下に、把手のついた扉があって、玉貨をいれて把手を引くと、なかに〈雫〉がはいっているのだそう。下を起点にして上だけが動く開閉の仕方だ。
〈器〉の測定方法は簡単。ヴァグエット先生が、下位コンバーターの投入口に軽く手をいれた。指先だけだ。
すると、ぱっと目盛りが消え、がらすらしきものの奥に数字が表示される。
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と、わたしの目には見えた。
ヴァグエット先生が云う。
「これがわたしの〈器〉と、現在〈器〉にたまっている魔力の量です。大きい数字が〈器〉、小さい数字が魔力量です。先程、用意し忘れていた赤いインクをつくったので、その分魔力が減っていますね。わたしはインクをつくるのが得手ではないので、消耗が激しい」
成程、解りやすい。MP最大値と、MP現在値、ね。
官吏がやってきて、クリップボードみたいなものと、下位コンバーターを見比べた。それから、自分たちも計測し、エーミレさん、ツェレスタンさんにも、計測を促す。官吏達は、600前後の〈器〉、エーミレさんが1594、ツェレスタンさんが1732。官吏達は手許とそれを見比べ、なにやら書きつける。「異常ありません。下位コンバーターは正常に動いています」
「お疲れさまです。コンバーターが壊れるなんてことはありえないのですが、記録をとる場合はこのように動作確認をします」
ヴァグエット先生が、ちょっとぎこちない口調で説明してくれた。官吏を庇ったのかもしれない。この後わたしが計測するのだから、それで不正が行われないか、慥かめた、ということだろう。
「しかし、流石、王室護衛隊のかたがたは〈器〉が大きい」
「日々戦っていますので」
エーミレさんが淡々と答える。「それに、自分とこやつは、隊のみでの行動の折、食材や布地をつくる担当をしています。〈器〉が小さくては話にならないので、休みの日には化けもの狩りで〈器〉を奪っているのです」
「ご立派です」
お世辞でも嫌味でもないようで、ヴァグエット先生はふたりへ軽く頭を下げた。慥かに、とても立派だと思うけれど、危険も大きい。大丈夫なのかしら。
こほんと、少し離れたところにいるレディーヌさまの侍女が咳払いした。赤紫の鈴蘭ブローチをつけているのは侍女、だそうだ。学んだ。
「寒いなかで公主さまをいつまで待たせるつもりですか」
わたしは慌てて下位コンバーターへ近付く。しかし、エーミレさんがどすのきいた声を出した。「隊長を待っているのだ。このような寒いなかで公主殿下に待って戴く必要はない。麦穂の城へ戻られよ」
「無礼な」
侍女のひとりが気色ばむ。しかし、レディーヌさまは微笑みをたたえ、それを手で制した。「ジェル。わたくしが勝手に見物しているのだから、無理を云ってはだめよ」
「しかし、公主さま……」
「聖女さまを困らせてはいけないわ」
澄んだ可愛い声で諭し、こちらへ笑みかけてくれる。可愛くて、気遣いができて、いかにもお姫さまという感じだ。
わたしはぎこちなく微笑んで、目を逸らした。




