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居城へ


 漸くと露の塔を辞したのは、五・六時間もたった頃だろうか。わたしの処遇や、阿竹くん達のことを話し合い、とても疲れた。

 エドゥアルデさまと腕を組んでらせん階段を降り、外へ出る。満月があかあかしているが、星は少なかった。

 見ると、馬車や馬が用意されていて、そのまわりに王室護衛隊の兵が数人立っている。シェリレさんしか名前を思い出せない。

「聖女さま、お住まいまでは彼らが送ります。まったくもって、宮廷はひろい。移動は馬車が一番ですよ」

 エドゥアルデさまがそう云って、腕を解く。わたしはよろけそうになって、怺えた。

「お住まいは、〈灰の広場〉にほど近い、五つ葉の城です。古めかしい石造りだが、なかは改装させましたし、もしなにかお気に召さねば専属の宮廷魔導士に云うといい。彼らはかなり便利なんです」

 言葉の端々に、こわさがある。わたしは頷き、目を伏せた。


 王太子殿下が自分の馬車へのりこみ、王太子護衛隊が馬にのってまわりを囲み、ゆっくりと走り出した。使用人達はそれを見送る。露の塔の使用人、もしくは陛下についている使用人で、ここへ残るのだろう。

 わたしはシェリレさんに促され、馬車へのりこんだ。シェリレさんと、もうひとりも、同乗する。すぐに馬車が動き出した。

「お疲れでしょう。どうぞ」

 マグを渡された。冷えているが、いつものお茶だ。いつも通り、おいしい。

「ありがとうございます」

「隊長が、あめのさまは疲れておいでだろうから、と」

 ランベールさんは気遣いのひとだ。とても、優しい。


 五つ葉の城。

 王家が式典を執り行う〈灰の広場〉のすぐ傍にある城。〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉へ聖女が来た時、住居としてきた。城の正面の壁に、五枚の樫の葉模様が彫られていることから、そう呼ばれる。

 聖女が居ない時は、補修の時と、年に二回掃除する以外誰も這入らず、放置されている。宮廷内にはお城や塔が沢山あって、側室や愛妾、王子や姫はそこへ住むのだが、いっぱいになっても誰かが宮廷を出されるだけで、五つ葉の城がつかわれることはない。

 建てられたのが数千年前で、補修を重ねているが、外観はほとんど当時のまま。補修の時の建材も、成る丈当時に近いものを選ぶ。

 馬車のなかで、シェリレさんが説明してくれた。わたしは頷く。

「大変ですね。再現……」

「なかなか、信頼に足る新しい建材も出てきませんし、古くからのやりかたのほうが安全です。ですから、大変という訳でもありません」

 (たし)かに……露の塔も、古めかしいというか、昔のお城のような感じだった。何千年も保つ建物をつくれるのだし、建築技術はとても高いと思うのだが、そうか、建材が昔ながらのものならば、建てかたも自然とそうなるのか。

 魔法の世界だ。しかも、すべての人間に〈器〉があり、回数の多寡や威力・精度はともかくとして、すべての人間が魔法をつかえる。なら、科学にしろ化学にしろ、発展は難しいのかもしれない。恢復(かいふく)魔法をつかえるひとは少ないそうだから、医療は多少発展しているかも。

 五つ葉の城には、衣裳部屋が幾つもあって、浴室も豪華で、厨房も立派だと、シェリレさんは教えてくれた。わたしを励ましてくれているみたいだ。わたしは、にこっとして、頷いた。どう反応したらいいのかよく解らないが、シェリレさんの気遣いはとても嬉しいから、嬉しそうにしておくのが無難だろう。

 本当はとても不安なのだけれど。


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