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類推


 ばけもの相手なら、聖女が来るというのは、大きな希望だし士気を上げる要因にもなり、更にばけもの達がそれを知ったところで特になにもないだろうから、喧伝しても悪影響はほとんどないだろう。

 聖女の軍に加えてもらえると考えて、大勢の志願兵が来る。それに、農家などから上納もあるのではないだろうか。食糧は大切だから、広告塔というか、聖女を利用して物資を手にいれようというのは、悪い手ではないと思う。それをするかどうかは別として、作戦としてありうる。

 でも、相手が人間だった場合は違う。

 対策を練られる。聖女が来る、つまり聖女護衛隊も来る、そうなったら……と、類推できる事柄が多すぎる。聖女(わたし)がひとりきりで移動してくる訳がないのだから、どれくらいの規模の軍をつれてくるか、などなど、考えようと思えば幾らでもできるのだ。

 だから、情報は大切なのだ。たったひとつの確定情報から、どれだけの可能性が考えられるか。蓋然性の高いものは確定情報につぐ重要さだと判断されるだろうから、あちらさんは随分入念な準備をしているということになる。


 たとえ、職業軍人が少なくても、命令系統がしっかりしていて指示に従えるのならば、実際の戦闘ではそこまで問題はない。が、情報に関しては扱いがおろそかになっている。

 だって、情報をどう扱うか、軍としてはどうするべきか、なんて、おそらく知らないのだ。誰だって教えてもらっていないことをできはしない。

 軍の編成や指導は大切なことだが、国にとってはあたらしい土地だ。それ以上に優先すべきことも多い。土地を発展させておかないと、処罰されそうだし。

 戦闘時にどう振る舞うか、騎士達の軍にきちんとした指針があるかどうかも、怪しい。そもそも、ドクトリンはこちらの世界では一般的ではないらしい。わたしが云いだして、王領警備部隊がそれに賛同してつくってくれたけれど、騎士の軍にはないと聴いた。なら、指揮官の胸三寸で、どこに進軍してどう戦うかが決まってしまっている、なんてことも、ありうる。

 それが悪い、ということじゃなく――いや悪いのだけれど、やむなしだなと思っている――、実際そうだから今更どうしようもない、のだ。今日明日でいきなりかえることは難しい。

 教範をつくったほうがいいのでは、ととおまわしに助言してみるかな、と思ったが、わたしが云ったら命令のようにとられるかもしれない。それはうまくない。ランベールさん辺りに云ってもらうか、実際に王領警備部隊でつかわれている戦闘教義の本をなにかのタイミングで見せるか、くらいしか思い付かない。わたしが居丈高に命令するより、聖女護衛隊の誰かからそれとなく提案してもらうほうが、いろいろと安全な気がする。


 騎士達はもとから軍人や貴族の家系ではない。一般市民、農民、なのだ。官吏が宮廷から派遣されてはいるけれど、官吏は官吏であって軍人ではない。軍のことには、精通していまい。

 だから、今回のことは、仕方がない。大隊長クラスがぽろっと、聖女さまが来る、ともらしてしまえば、三日も経てば軍全体が知っていることになる。そんなものだ。

 こうなると、わたしが偽聖女だと思われているらしいことは、いいことらしい。〈燃えさかる花の王国(ルゥク・ミングレイ)〉は油断してくれている。助かったな。


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