国王と王太子 2
憎々しげな陛下の視線をうけとめ、王太子殿下は淡々と云う。
「アッセルマンとボールドンは特に玉貨鉱床のかたまっている地域です。父上の云うところの卑しい者らに与えればよかったのですか?」
「なら、潔くひき渡せばよい」
「それはどうでしょうか。父上は僕に玉貨鉱床を与えない理由を、なんの功もたてていない故だといつか仰言いました。儀式の場でです。公爵と侯爵全員がそれを聴いています。あれだけの土地を手にいれたのならば、それは功ではないのですか? それとも父上のあの言葉は嘘だったのでしょうか?」
陛下はテーブルを拳で叩いた。わたしはびくっと震える。
「カザデシュースはどう説明する」
「あそこはラツェレイユ公爵がどうにもならぬと父上に返し、僕が指揮した軍が化けものを駆逐して、漸くと玉貨をまともに採れるようになった土地です。それに、記憶違いでなくば、巧くいったならお前にやると仰せでした。僕の所有権を貴族達も認めています。ラツェレイユ公爵も」
「貴族どもなぞ知ったことか。国王はそんなものを無視できる」
「なら無視なさればいい」
あっさりそう云って、エドゥアルデさまは桃のコンポートをかじった。「僕は嫌われていますから、案外巧くいくかもしれません。しかし、僕を嫌ってはいても、貴族らは僕の権利を認め、領地を持つことに反対しなかった。その意味を理解できぬ父上ではないでしょう」
暫く無言の睨み合いが続いた。
やがて、陛下が目を逸らし、悔しそうにパンを掴んで引き千切る。エドゥアルデさまは桃のコンポートの残りを口へいれた。エドゥアルデさまの勝ち、なのだろう。
「聖女さまは、毒々しい貴族女から離れ、聖女護衛隊と化けもの討伐をこなし、何れ王家へはいる。そのかわりに、友人達には安穏としていてもらいたい。それだけのことです。父上は、そのような些少な願いもききいれくださらぬのですか?」
「恢復の魔法をつかえる者がふたり居ると聴いた」
せめてもの抵抗か、陛下は云う。「王都内の王立病院と王立孤児院をめぐらせる。傷病者の治療にあたらせる。戦う訳ではないからよいだろう」
エドゥアルデさまが真顔でこちらを見た。
病気のひとや、怪我人の治療なら、危なくはないと思う。わたしは小さく頷いた。
エドゥアルデさまが陛下へ目を戻す。「そのように手配しましょう。玉貨を幾らか支給しますか?」
「知るか。お前が決めろ」
「では、治療で昏倒しない程度には与えておきます。そうだ、恢復魔法をつかえるうち、ひとりは女性です。サウニエーレ夫人が恢復魔法のつかいてをさがしていると聴いております。その者をつけては?」
陛下がエドゥアルデさまへ、持っていたフォークを投げつける。
エドゥアルデさまの白い服に、グレイビーソースのしみができた。しかし、王太子殿下は怯まない。傍に居るわたしはぶるぶる震えているというのに。
「なにを云いたい……」
「僕の記憶違いでしたか? サウニエーレ夫人が恢復魔法のつかいてを求めていると聴いて、体の具合がよくないのかと、心配した覚えがあるのですが」
「ふん! 心配だと? 喜んだの間違いだろう。お前はクラリッセを軽蔑し、下に見ている。母親に妙なことを吹き込まれて。お前の母親は最後、妄想と幻覚に生きていた。クラリッセを悪く云うのはさぞ体によかったろうな!」
「僕はサウニエーレ夫人を軽蔑なぞしていませんよ」エドゥアルデさまの声は冷たくかたい。「あのひとは路傍の石とかわりない。僕には関わりないし、邪魔になったらとりのければいいのです」




