宮廷 1
気まずい沈黙の後、馬車が停まる。
エドゥアルデさまに手をひかれて、馬車を降りる。わたしは今日、エドゥアルデさまに指示され、その通りの服を身につけていた。
白地に黄色とオレンジ色で、細かいぬいとりの施されたドレス。鎖骨が露出しているデザインで、袖は肘まで届かない。スカート部分はふわっとふくらんで、釣り鐘型。ペティコートは重いのだが、おかげで脚はあたたかい。
おみなえしのような色合いの、ケープとマントが一体化したようなものを羽織り、金のリボンで停めている。この上着はあたたかくて、手袋は必要ない。
くつは、金のパンプスだ。金襴のような素材でできているように思えた。
髪はしっかり梳いて、後頭部に華奢な金の飾りをつけてある、耳の上から耳の上まで、平たく引き延ばされた逆三角のような形の飾りを。
エドゥアルデさまが腕をさしだし、わたしはそれへ縋る。
前を見るとお城があった。
増築に増築を重ねたのだろう。王都を囲む壁と同じ材質でできていると思しい、夕焼けを反射するお城は、形がいびつだ。
宙に張り出した部分があったり、尖塔がぶつかりそうな近さで建っていたり、窓の配置がずれていたり、見ていて違和感がある。
エドゥアルデさまにひっぱられて歩く。屋根は、銅板でも葺いているのだろうか、煌めいていた。背後を見ると、夕闇に沈むように、アーチが並んだみたいなものが建っていた。陸橋の下の部分に見えなくもない。その下をぬけてきたと解った。別の馬車が次々やってきている。
前へ向き直る。アーチを潜るところだった。扉はついていない。
とてもひろい廊下の途中、みたいなところだった。正面は単なる壁だ。
前後左右の壁にとりつけられた燭台に、灯が点っている。床に幾つか、大きな燭台も配されていて、そちらもぼんやり光っている。
床は白く、踏むのが申し訳ないくらいに磨き上げられていた。天井は高い。そして、遮るものが少ないからか、とても寒い。
「父上は?」
駈け寄ってきた、濃い灰色の服の男性へ、王太子殿下はぞんざいな口調で云う。灰色服の男性は、軽く頭を下げた。
「露の塔です」
「またか」エドゥアルデさまは顔をしかめたが、静かに続けた。「お食事をそちらでおとりになるのなら、我々もお相伴にあずかりたいと伝えてくれ」
「かしこまりました」
男性は深く頭を下げてから、わたしから見て左方向へ走っていく。
エドゥアルデさまがこちらを見た。「今のは官吏です。あの服の者らには、なにを云いつけてもかまいません。同じような服で肩章をつけた者もあるが、それも多少位が高いだけで単なる官吏です。雑用につかってかまわない」
かまうだろう。官吏なら、仕事があるのだから。
後を追うようにして、左へ進む。部屋があって、そこに居た黒い服のひと達が、飲みものや椅子の用意を始めた。なかには、黒いドレスの女性も数人居て、ランベールさんが追い立てるみたいにしてさがらせる。
黒い服のひと達は、エドゥアルデさまに拠ると、「ただの従僕と女中」とのこと。位はないが、出世できれば侍従と侍女になる。貴族出身者なら、端から侍従や侍女の場合もある。
「聖女さまに付く侍従はすでに決めてあります。ヴァノツ、ロウクス、ジョウベルテ、何れも伯爵家だが、その出身です。傍系ではありますが。それでも、今、宮廷に居る侍従では、一番家柄がいい」
エドゥアルデさまはちょっと考えて、付け加える。「侍女に関しても、検討しましょう。あなたの状態を見て」
逃げたり逆らったりする素振りがなければ手配する、ということかしら。




