概念
大口を開けてしまった。そこまで云うか。
今まで考えていたこと――宗教的に裏打ちされている――は、あっていると云えばあっている。だが、あまりにも単純で、素っ気ないような答えだ。
「それじゃあ、最初は? 〈陽光の王国〉や、王家は、最初どうやって……」
「はじめ、この地に国はありませんでした。少なくとも、現在のような国は」
ランベールさんは淡々と云う。
大昔、空白やころころかわる季節になやまされていた人間達は、魔法をつかえても大きな集団をつくることはめったになかった。
玉貨鉱床や下位コンバーター、勿論、コンバーターと上位コンバーターは存在していたが、空白が来る度にひとが大勢死ぬ情況だった。そして、ひとの数が少ないので、集団は大きくなれない。
そんななか、幾つかの大きめの集団があらわれ、玉貨鉱床を占領しはじめた。玉貨と別のものの交換、だから、玉貨をお金としてつかうのは、この辺りからはじまったとされている。それまでは、玉貨は〈雫〉に交換するだけのもので、要するに間接的な魔力のもとでしかなかったのだ。だが、それを貨幣として利用することがはじまった。
「これは、聖女や御子が降臨し、そのようなつかいかたをひろめたという学者も居る。実際、玉貨を持っていけばそれに応じてどんなものでも生じさせる者が、数人あったらしい。その魔法のすさまじさは、遠くの者であると思わせる。わたしはこの説には懐疑的な立場だったが、あなたと接していたら頷けることは多々ありました」
どういう意味だろう、と思い、わたしは首を傾げた。ランベールさんは微笑む。
「あなたは平和なところで生まれ育ったのだろう。玉貨とものとを交換することによって、なにか問題が起こるなどとは考えまい」
「問題ですか?」
どんな問題が起こるというのだろう。玉貨はコンバーターによって、魔力のもとの〈雫〉になる。だから、なにかをつくるかわりに、それに必要な魔力を補う為の玉貨をもらうのは、おかしいこととは思えない。手間賃として、少し多めに玉貨をもらうくらいまでなら、許容範囲だと思う。
ランベールさんは少しだけ顔をしかめる。「とにかく、遙か昔の聖女さまや御子さまは、我らの蒙を啓いてくださいました。その為に、玉貨鉱床の奪い合いがはじまるのだが」
玉貨とものとの交換が盛んになって、人々は徒党を組んで、玉貨鉱床を手にいれようとした。玉貨がほかの、手にいれるのが困難なもの――おもに食糧――と交換できるとわかったからだ。
というよりも、そういう「普通にしていたら手にはいらないかもしれないもの」をつくれる人間が居たから、それによって死亡率が一部の集団で下がり、玉貨鉱床の占拠がはじまって、玉貨がどんどん価値の高いものになっていった、ということらしい。
最初に玉貨鉱床を独占しはじめたのは、大概が血縁者および婚姻関係のみで構成された集団だったが、その次には単に気の合う仲間で集団をつくるようになっていった。そこから同じ名字をなのったりもしていた。
そして、そのなかから、王をなのる人物が複数あらわれた。そのなかには今は絶えてしまった家系もあれば、〈影の左の王国〉のように今も残っていて大きな国を治めている家もある。




