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王室護衛隊隊長、聖女について考える


 船内の食堂で、兵達は色めき立っていた。

「聖女さまと()()()目が合ったんだ!」

「伝承通りだったか? 青と橙の?」

「いや、黒だ、でもただの黒じゃない。〈凍える地(ルァング・セイヴ)〉の大河をかためたみたいな、それは綺麗な黒だ」

 行ったことも見たこともないくせに、と非難する者はない。それどころか、皆、ツェレスタンの話に夢中だ。低声でささやきあい、目を交わしていたずらっ子のようにくすくす笑い、自分の番が(自分が聖女さまの視野にはいるような任に就く番が)いつまわってくるかとうきうきしている。


 ランベールは苦々しく、兵にあるまじき浮かれた様子を見せるひよっこ達を見ていた。

 「聖女」あめのは、ランベールが特に信頼を置いている兵ふたりに見張られ、寝ている。さぞ居心地が悪いだろうに、あの娘は余程疲れていたか、ねますと云って本当に寝た。あの図太さは、〈器〉の大きさ故だろうか。(たし)かに、あめのが用捨をしなければ、ここに居る兵達の半分は一瞬で命を落とす。おそらくわたしも含まれるなとランベールは思う。それだけ、あの娘の魔力は高い。

 だが、ランベールはあめのを聖女だとは思っていない。と云うよりも、聖女に関する伝承を大半信じていない。ランベールが信じているのは、〈遠く(ミィト)〉から来た者は決して帰還がかなわないこと、招聘者は何人来てもかならずひとりはすべての魔法文字を認識し、声に出して読めること、だ。

 いや、もうひとつ、ついさっき加わった。異界人は魔法や魔力に頓着しない。ないもののように扱う。


 (たし)かに、あの娘の〈器〉は大きい。魔力は高い。だが、だから我らを救うとは限らない。こやつらは忘れたのだろうか?エヴェ新王時代の聖女がなにをしたか?騎士団を掌握し、民衆を扇動し、結局〈岩根の王国(セーン・ルシャ)〉は滅んでしまった。あの時代では一番平和だった国が。

 しかし、異界人に頼らねば、もうどうにもならない情況なのも、ランベールは理解している。この三十年近く、化けもの達は勢力を強め、〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉の精鋭部隊も三分の二まで数を減らした。だからといって、宗派の違う者同士で結束はできないから、人間同士の争いも絶えない。いや、激化した。化けものの被害をうけたら、被害をうけていない国を襲って物資、おもに食糧を手にいれる。それがてっとりばやい。だから、〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉は、大きな戦力になる聖女をほしがった。


 あの国があめのを招聘する為にどれだけの金と時間をかけたか、ランベールは知らない。ただ、聖女を招聘するには、招聘に必要な魔法文字を読める者だけでなく、その魔法を増強する者が最低十人、適切な場所、それに魔法に必要な魔力が必要だ。ふたつの木箱にどっさりの〈雫〉でも足りない。〈雫〉代だけでも、五貨が何千枚、下手をしたら何万枚になる。その上、成功するかは運次第だ。巧くいってもいかなくても、招聘の儀式をした者は招聘用の魔法文字を認識できなくなる。もしくは死ぬ。相当な犠牲を払って、巧く行くかは解らないというのだから、〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉はよくそんな儀式に手を出したものである。

 そして、それをわたし達が横から掠めとったという訳だ。ご聡明なエドゥアルデは、聖女におまけがついてきたと大喜びするだろう。

 実際のところ、あの五人を戦力として数えるなら、五貨何万枚でも足りない。それを云うなら、あめのひとりでも値千金だ。


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