お茶の秘密 2
ランベールさんと、ハーブティー。
なんだか、不思議な感じ。
ランベールさんに、ハーブティーが似合わない、と云うことではない。でも、意外だ。だって、ランベールさんがハーブティーを飲んでいるところは、見たことがない。食事の時はいつも、量は少ないけれど、赤だったり、緑だったり、青だったりする、アルコールを吞んでいる。おやつの時はどうなのか、知らない。見たことがないから。
マグへ目を落とす。ひとくち飲んだ。おいしい。これのブレンドを、ランベールさんが。……不思議だけれど、いやではなかった。ううん、なんだか、少し、嬉しい。
「……ランベールさんにも、お礼を云わないと」
「是非、そうなさってください。隊長は、その……言葉が荒い時があるので、誤解されますが、とてもいいかたなんです」
頷く。わたしも、ランベールさんはいいひとだと思う。
エドゥアルデさまは、率直に、「聖女」を利用している。
別に、それが悪いと云うのではない。そもそもその為にわたしをさらったのだろうし、もと居た世界とは常識が違う。
それに、化けものが沢山わいていて、この国は戦時下にあるのだ。なりふりかまわず、なんでも利用するのは、自然なことだと思う。なにしろ、あのひとは王太子で、その双肩には色々なものを負っている。国民から期待されているのだ。だから、結婚だのなんだのはいやだけれど、理屈は理解できる。理屈は。
でも、ランベールさんは、わたしが戦うのをいやがった。と云うか、いやがっている。年端も行かぬ娘を戦いに参加させるのか、と。
ランベールさんは、わたしに優しくする義理はないのだ。寧ろ、わたしが戦うつもりなら、本来喜ぶ立場だと思う。
エドゥアルデさまも云っていたが、人間が戦う時には士気が重要だ。幽霊部員だけど、運動部に居たから、解る。絶対に負けるような点差でも、やる気と気合いだけで、それをひっくり返した場面は、多々見た。スポーツでもそうなのだから、命がかかった戦場なら、もっとずっと、士気は大きく影響するのではないだろうか。
「聖女」は、希望になる。それは理解できている。だって、どんな魔法でもつかえるのだ。
聖女が居る。そう思えれば、一緒に戦う軍は、きっと相当な力を発揮する。わたしがランベールさんの立場なら、多少心が痛んでも、聖女を戦わせる。ことは戦争なのだから。
なのに、ランベールさんはそれをいやがり、危なくなったら逃げろと云ってくれた。わたしを気遣ってくれた。ランベールさんは、だから、凄く優しいひとなのだろう。
ハーブティーの香りを、胸いっぱい吸いこむ。カモミールは、一番好きなハーブだ。ジャーマンカモミール。りんごみたいな香り。
冷たい風が吹き込んだ。そろそろベッドへ戻らないと、明日の昼間に眠くなってしまう。わたしはハーブティーを飲み干して、マグをナタナエールさんへ返す。ひょいと椅子を降りて(この椅子は高い)、窓の傍へ立つ。少しづつ左へずれていく満月を、最後に十秒くらい眺める。雲が多いから、明日も雪かしら。
明日には、王都に居るかもしれない。宮廷には、エドゥアルデさまみたいなひとが、ほかにも居るのだろうか。それとも、ランベールさんみたいなひとが?
どちらでもいいから、とにかく阿竹くん達には何事もありませんように。
そう願って、わたしは窓を閉めた。




