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お茶の秘密 1


 よなかに目が覚めた。

 ベッドを降りて、窓の外を見る。大きな金の月が、煌煌と耀いていた。どうやら、この月は欠けないらしい。それとも、わたしの目でとらえられないだけで、昨日より少しは痩せているのだろうか。


「眠れないのですか」

 目を遣った。コランタインさんだ。ナタナエールさんと、扉をはさむようにして立っている。鎧は身につけていないが、帯剣していた。

 わたしは頭を振って、もう一度月を見る。本当の金みたいに、きらきらして、綺麗だ。どうしてこんなに綺麗な色をしているのだろう?


 ナタナエールさんが、ハーブティーを淹れてくれた。渡された陶製のマグを両手で持つ。「ありがとうございます」

「いえ。隊長から、あめのさまが寝付けないようなら、このお茶をさしあげるようにと命ぜられていますので」

 ランベールさん、やっぱりいいひとだ。


 コランタインさんが、椅子を一脚持ってきてくれて、わたしはそれに座る。この部屋には、小さくて四角いテーブルと、二脚の椅子がある。

 ナタナエールさんが、肩掛けをかけてくれた。お礼を云って、月へ目を戻す。もとの世界の月より、五倍以上大きいのじゃないかしら。少なくとも、そう見える。

 マグを抱えるみたいにした。熱くはなくて、程よくあたたかい。ひとくちすすると、香りが口腔から鼻へぬける。カモミールがたっぷりに、ほんのちょっとのローズマリー。今日は、スペアミントははいっていなくて、かわりにかすかにローレルの香りがした。それに、もしかしたらコリアンダーも。

「おいしいです」

 傍らに立つナタナエールさんを仰ぐ。ナタナエールさんはくすっとして、屈み込んだ。ポニーテールが揺れる。「あめのさま。このお茶は、誰が発案したか、知りたいですか?」

「……ナタナエールさんじゃないんですか?」

 戸惑って返すと、ナタナエールさんも、コランタインさんも、小さく笑った。

「違います。どの薬用植物を、どれだけの割合でと、指示されてつくっているのですよ」

 そのことはなにか、面白いみたいで、ふたりはいつになくにこにこしていた。


 ナタナエールさんは、声を低める。

「では、手がかりをさしあげます。そのひとは、わたしよりも歳は下です」

 コランタインさんを見遣る。にこっとされた。「わたしは21、ナタナエールは20です」

 なら、コランタインさんではない。(たし)か、マーリスさんは二十一歳だと聴いた。違うと思う……勘違いでなくば。アムブロイスさんと、エーミレさんは、幾つだったかしら……聴いていなかったかも。


 ツェレスタンさんは、今年十七歳になる、らしい。あと、ギゼレさんは、十九歳だったと思う。なにかの折に耳にした。

 そのふたりの名前を出してみたが、ナタナエールさんは頭を振った。

「もうひとつ、手がかりを……そのひとは、緑の瞳です」

 緑……シェリレさん。

 だが、それも違った。

「わたしの知っているひとですか?」

「勿論。正解できない、意地悪な問題は出しませんよ」

 ナタナエールさんはくすくすしながら云う「最後の手がかりです。そのひとは、わたしよりも階級が上です」

 階級が上……。

 ナタナエールさん、コランタインさん、マーリスさん、ギゼレさんは、中隊長クラス扱いで、配下も居る。それより上は……まさか。

 わたしは、マグを見詰め、それからナタナエールさんへ顔を向ける。

「ランベールさん……ですか?」

 ナタナエールさんがこっくり頷いた。


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