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トゥウェイネ子爵


 翌日も移動は続いた。

 朝、馬車にのる時気付いたが、馬車をひく馬がかわっているようだった。馬を次々かえて、走り続けている、のだろうか。


 雪が降っていて、馬車の速度は前日よりゆっくりだ。わたしはたまに、窓を開けて、外をうかがう。

「わたし達だけならさっさと帰れるんだがな」

 エドゥアルデさまは寒いのが本当に嫌いなようで、いらいらした調子だった。「走ってでも。もしくは、跳んででも」

「王太子殿下が、まともに護衛もつけずに移動を? 正気ですか?」

 ランベールさんが顔をしかめた。「王太子護衛隊全員が失職しかねない不祥事だ」

「お前は女だけでなく王太子のことも解っていない」エドゥアルデさまはにまにまして、脚を組みかえる。「王太子というのはね、こうやって悪ふざけをしていないと、次の瞬間には息が詰まって死んでしまいそうな気がしているものだ。僕がなんとか生きているって云うのに、お前は時折ひどく冷たいのだから」

「わたしは事実を述べたまでです。王太子の冗談に付き合うことは、王室護衛隊の職務にははいらない」

「云うな」

 ランベールさんの切り返しにエドゥアルデさまはにやっとして、ランベールさんの隣へ移動した。そのまま、ランベールさんへ凭れかかる。「殿下」

「暖炉のかわりになれ。僕は少し寝る。昨夜、つまらぬ話に付き合わされて、寝不足なんだ」

 そう云って、目を瞑る。すぐに寝息をたてはじめた。あっという間だ。

 ランベールさんと目が合う。苦笑をうかべていた。「王太子というのは、よほど疲れる仕事のようです」

 しみじみ云うのが面白くて、わたしはちょっとだけ笑った。ランベールさんも微笑む。このひとは笑顔のほうが断然いい。


「ようこそお越しくださいました!」

 トゥウェイネ子爵、は、かなり歳のいった、杖をついた男性だった。

 わたしはエドゥアルデさまと腕を組んだ状態で、そのひとを観察する。ひげを綺麗にそり、紺色の外套をきちんと着ていて、剣を佩いているのだが、その剣がやけに重そうに見える。腰が曲がっていた。

 しかし、声は大きく、通る。

「いや、生きて再びご尊顔を拝するとは、夢にも思いませんでした!それにしても殿下、相変わらず楚楚としたお姿!」

「これはどうも、トゥウェイネ子爵。人生の先輩である子爵に云うのもなんですが、その言葉は主に女性につかうものかと」

 エドゥアルデさまの言葉はやわらかいが、凄く険のある云いかただった。トゥウェイネ子爵はがっはっはと笑って、わたし達をお邸へ導く。エドゥアルデさまは不快そうに、鼻に皺を寄せた。


 お邸……と云うか、お城だ。小振りだけれど、(たし)かに。

 三階建ての部分があって、それから尖塔がふたつ伸びている。顔を精一杯左右に振って、端を見ようとしたが、できなかった。横にひろい建物だ。もしかしたら、奥にも。

 開け放たれた扉の向こうは、吹き抜けの玄関広間だった。トゥウェイネ子爵は老齢故に、少々頭がはっきりしていないらしく、エドゥアルデさまが女性であるかのように喋ることがしばしばみうけられる。お姫さまと勘違いしているのだろう。

「さて、殿下は寒いのが苦手でしたな。暖炉の火は絶やさぬよう云いつけてあります。それから今夜は、あたたかい、牛の煮込みを用意いたしました。殿下の音頭で〈重たい炎(ラァ・スプロ)〉へ祈りを捧げるのが楽しみですな!」

 エドゥアルデさまは笑みを保っていたが、トゥウェイネ子爵が食堂へ移動しはじめると、ぼそっと云った。「ああ、僕も寒いのは嫌いだ、さいわいなことに。しかし牛は好きじゃないね。戻ったらレディーヌに文句を云ってやらねば」


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