同盟……?
雫はなんの味もしない。
ランベールさんに、横になるよう云われた。だからそうする。わたしには主体性なんてない。ただ、流されて、そのままだ。
ランベールさんは、ベッドに浅く腰掛ける。肩が落ちていて、せなかが淋しげだ。上位コンバーターの鎖を、ずっと触っている。
約束のことは他言しないよう云われた。わたしは頷く。わざわざひとを寄せ付けないで話をしたのだから、それは理解している。
ランベールさんは低く、ゆっくりと喋る。
「明日の朝、ここを発つ。雪が深くなければ、トゥウェイネ子爵領に這入れるだろう。夜には、どこか適当な街で休む。明後日も移動して、今度はトゥウェイネ子爵の居城に泊まると思う」
ランベールさんは、小さく息を吐く。「あなたが本当に心を休めるひまはないだろう。それに関して、わたしは尽力するが、役立つと断言はできない。だが、エドゥアルデに煩わされる時間は減らしてやれる。わたしが相手をしていればいいのだから」
「……必要ありません」
「あなたはあれと居ると、まるで追い詰められた鹿のようだ。わたしはその状態がいいようには断じて思えない。養生してもらわねば、こちらの職務にも差し障りがある」
ランベールさんは、座りなおして、半分こちらへ向く。あたたかい手が、わたしの顔にかかる髪を、そっと横へ避けた。
「わたしはあなたが戦うことに納得していない。けれど、王の決定ならば、従わざるを得ない。わたしの母は他国の姫だった。そのことで、わたしはどこまでいっても疑われ続ける。諫言まではできても、それ以上はできない。例えば、王の命令に逆らう、というようなことは」
わたしは小さく頷く。ランベールさんは寸の間黙る。
「しかし、あなたはわたしの部下を救ったし、わたしを救った。なにか手助けしたく思う。王の命を違えないように。つまり、戦場でもどこでも、あなたをきちんとまもることによって」
必要ないと云おうとしたが、遮られた。
「これは、わたしがやりたくてやることだ。あなたの許可を得ようとは思わない」
「……ランベールさんも、責任感が強いです」
「誉め言葉と思っておきますよ、あめのさま」
ランベールさんはかすかに笑って、わたしの額を撫で、出ていった。
ランベールは、廊下を歩きながら、少しだけ後悔していた。あめのを……慰めた?
励ました、だろうか。あれは、問題だったかもしれない。部屋でふたりきりになって、長々と喋って。
けれど、あの参った様子を見て、放っておくことははばかられた。
エドゥアルデは、あめのを脅迫したことを、これ以上誰にも知られたくないようだ。だからランベールへ、気を失ったあめのを二階の部屋へ運ぶよう云い、目が覚めて落ち着くまでひとりで見張れと命じた。そして、誰にも喋らぬよう云ってきかせろと。
あんなに怯えた少女に。
頭を振る。それは、深く考えるべきではないことだ。王命には従う。でないと、命に関わる。自分だけでなく、自分の家族も、危うくする。
「うかない顔だな」
目を遣ると、エドゥアルデが居た。だらしなく、左肩に外套をひっかけ、階段手前の壁へ凭れている。
姿勢を正して、王太子殿下はこちらへやってくる。「さっきは云い損ねた」
「……なんだ」
階段下には兵が居る。それでも、ランベールはつい、平口で云った。
「お前は彼女と親しくするんだ」エドゥアルデはにまにまして、低声で云う。「お前が僕と聖女さまの仲をとりもつ。それならば、僕と聖女さまがわりない仲になっても、お前が僕と仲違いしない理由になる」
ランベールは頷く。逆らって得はない。エドゥアルデはランベール(と、それに付随する者)の命をまもる。ランベールはエドゥアルデの計画を手助けする。その為に互いが泥を被る。それは、誓った。だから違えない。王太子も決して約束を違えない為に。




