話し合い 3
いったい、なにを食べてすごしたら、こんなに自信にあふれるのだろう?
奇妙にもわたしはそんなことを考えていた。このひとくらい自信があったら生きているのはとても楽しいだろう。そして、なにもかもが思い通りに運ぶ。
聖女との結婚も。
エドゥアルデさまはデーツを口へいれる。
「無論、今日明日、と云う話ではない。あなたはまだ幼いし、我が臣民は、政略の匂いを嗅ぎとるのに敏感だ。ある程度時間をかけて、ランベールとの関係を解消しなければ、おのれの地位を確実にする為に聖女を巧く騙した、と思われるだろう。ランベールと距離をとって、その後であなたに正式に求婚しますよ」
その言葉に、ランベールさんはまったくの無表情だった。けれど、さっきよりは俯いていて、綺麗な黒髪が影をつくっている。
わたしは吐き気を怺え、唾を嚥む。エドゥアルデさまの落ち着いた声がする。視野がほのかにくらくなっていく。
「整理しておきましょう。こちらの要求は簡単だ。〈陽光の王国〉の為、化けものを討伐してほしい。優秀な血を王家へ与えてほしい。そのふたつです。そして、そのふたつの邪魔になる女という要素を、暫くあなたの人生から遠ざけておいてもらいたい。これは、王家の誰かと結婚した後には、少しゆるめます」
にこっとわたしへ笑みかけてくる、王太子殿下の口許が、はっきりと見える。
「それを吞んでもらえるのなら、ご友人がたとの時間は、多少ですが設けましょう。勿論、玉貨鉱床、城、専属の魔導士、コンバーターはあなたのものです。悪い話ではないと思いますが」
「……阿竹くん達を戦わせないという条件は」
「おっと、忘れていた。それについても、僕がきちんと父上に伝えます。あなたが国の為に戦うつもりで、何れ王家の誰かと結婚する意思があると添えて」
「解りました」
ランベールさんがはっと息をのんでこちらを見た。わたしは、あまりの気分の悪さに、視野が半分以上くらくなっている。見えない。
ランベールさんはどんな顔をしているのだろう。
「要求を吞みます。だから、こちらの条件も受け容れてください」
そう云った。その後は、意識を保てなかった。
目を開ける。体を起こす。
「無茶をなさる」
びくっとして、声のほうを見た。ランベールさんだ。
しかめ面で、腕を組んで壁に凭れ、なんだか怒っているみたいだった。つかつかとこちらへやってくる。
「あなたは責任感が強いようですね」
ランベールさんの手には、玉貨が握られている。上位コンバーターへおしつけると雫にかわった。さしだされたものを口へ含む。
消えた。
「そして愚かだ。自分を優先するべきだった。下らぬ友情ごっこをするよりも」
「ごっこ?」
「彼らがあなたを救ったか」
仰ぐ。
日塚さんは、わたしがまわりになじめるように、気を配ってくれた。
月宮さんは、わたしが困っていると、かわりに判断してくれた。
如月さんは、部活の後、片付けを手伝ってくれた。
阿竹くんは、わたしを好きだと云ってくれた。
みんな、善良だ。だから、傷付いてほしくない。
わたしにできることはそれだけ。
「国があなたを救いましたか」
精一杯、云い返した。
ランベールさんは溜め息を吐く。
「いいや。国はわたしとその家族を殺す理由を、常にさがしている。そうだな。わたし達は似た立場のようだ」
ランベールさんはそう云って、雫をもうふたつくれた。




