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今度はどの季節?


 戦いがうまくない、というのが、顔も名前も知らない連隊長への印象だ。みっつの門をまもるのにも、兵の振り分けかたが大変にまずかったそうだし、物資も偏っていた。ついでに、連携もなにもあったものではなかったし、そもそもほかの場所の戦況がまったく伝わってこなかった。

 防衛戦に限らず、多分、連隊長は会戦も攻城戦も得意ではないだろう。補給にきちんと気を配れない指揮官は、ありがたくない。約束の魔導士が来ず、玉貨もまともに届かずで、兵の士気も下がっていたし、ね。


 玉貨の箱とコンバーターさえあれば、大きな魔法のひとつふたつ、惜しまずにつかえる。あの時サシャ卿の陣中見舞いをかきあつめても玉貨は少なかったけれど、わたしは沢山の玉貨を持っているのだ。

 わたし、というか〈器〉が大きくて、認識できる魔法文字も多い人間は、大砲のようなものである。なにもなくて動くものではない。火薬と弾は必要なのだ。つまり反対に、それらがあれば、きちんと働ける。

 今現在、わたしの手持ちの玉貨は、ここまで持ってきたものだけでなく、レイナル執政官やサシャ卿から渡されたものもある(らしい。実際、目にしてはいない)。女中の不始末だとか、ばらのとげだとか、そういったものに対するおわびの玉貨である。

 それらを、この街にとって脅威になるであろうマーダーウッドを退治するのにつかうのは、いい気がする。王都へ持っていったら、いろんなところから反感を買いそうだ。わたしはそういうのはいやなのだ。こわい。

 それに、女中の言動を思い出すきっかけになりそうだし、わたし自身があれを手許に置いておきたくないのだ。いやな気分になるから。

 だからそれらを用いて魔法をつかい、どうせだから〈器〉を大きくできそうなマーダーウッド退治をする。要するに、自分の為。


 顔を洗い、歯を磨いた。スゥーリーの様子を見る。空白であろうとなかろうと、スゥーリーはぐっすり眠っている。何事あっても動じないのが愛らしい。

 侍従達は、昨夜可愛らしい訪問者があって睡眠時間がけずられたことだし、わたしを起こすまいとしてくれているらしい。誰も来ないし、声さえかけられない。

 だからわたしは自分で服を選び、きがえた。たまごの黄身のような色の、ゆったりと胴まわりを締めつけないドレスに、らくだ色のショートブーツ、オフホワイトのマントだ。少々肌寒い感じがしたので、一応マントも着けた。春や秋の涼しさならいいが、冬の寒さは勘弁してほしい。こちらに来てから、冬の期間がだいぶ長い気がするから。

 髪を()き、適当なピンをつかってハーフアップにしてから、意識して呼吸を整える。それから「寝室」を出た。気合をいれないと、聖女をやるのは、なまなかなことではない。


 「居間」には侍従がひとりに、医師、それと聖女護衛隊の兵がふたり、王領警備部隊の兵がひとり居た。わたしが姿を見せると、侍従が丁寧な挨拶をしてから居なくなる。食事の用意をいたします、と。

 なんとなく、ランベールさんを目でさがしている。これまでは結構な確率で彼が居た。最近はどうも、刺々しい言葉の応酬を繰り返してしまうのに、それでもランベールさんが居たほうが安心できるのはどうしてだろう。まったくもって、自分の気持ちが解らない。

 不可解なことだ。


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