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冬の到来 2


 朝食の後、外へ出た。信じられないことに、雪が積もっている。わずかだけれど、(たし)かに。

 エドゥアルデさまと腕を組み、前庭の、石畳の敷かれた道を歩いた。ランベールさんが先導してくれている。

 ドレスの裾がたまに雪に触る。空気がひんやりしていて、肺が冷える。手袋がほしい。

 手足の指先がじんじんしてきた頃、馬車が見えた。白と金の馬車だが、一昨日のものとは少し違う。本体が丸っこくて、車輪もなんとなく違った。

 ロウセット子爵が王太子殿下にお別れの挨拶をする。その後、わたしとエドゥアルデさま、ランベールさんは馬車にのった。


 なかはあたたかかった。ふっかりしたびろうど張りの席に座る。エドゥアルデさまは隣で、ランベールさんはエドゥアルデさまに促されてその向かいへ座った。わたしは、揺れに備えて、身体強化の魔法をつかっておく。

 すぐに、馬車が動き出す。王太子殿下は、ふうっと息を吐いて、脚を組んだ。「まったく、退屈だな、ロウセット子爵は」

「殿下」

「ああ、ああ、解っているよランベール。彼女は真面目で誠実な人柄だ。つまりそれって退屈だってことだろう?」

 ランベールさんはエドゥアルデさまを睨んでいる。エドゥアルデさまはにやにやしていた。

 がたんと馬車が揺れた。「おっと、あんまり憎まれ口を叩くものではないな。〈重たい炎(ラァ・スプロ)〉に厭われてしまう」

「その前に、諸侯の反感を買います」

「お前がなにも喋らなくばいい」

 エドゥアルデさまはそう云って、こちらを見た。澄んだ紫の瞳で。

 わたしは身をすくめる。

「これは宮廷魔導士につくらせたのですよ。ランベールの云うように、ロウセット家の馬車を借りるというのは、なんとなくしゃ()()だったものでね」

 返答は求めていないようで、エドゥアルデさまはふいと顔を背けた。ランベールさんを見ている。

「玉貨を多めに持ってきていてよかった。あやつらはつかえるのだな。嬉しい驚きだ」

「……殿下」

「宮廷魔導士が思ったよりも優れている、と云ったんだ。侮辱したのじゃない」

 どうも、このひとは、ランベールさんを困らせて楽しんでいる節がある。ランベールさんも解ってはいるみたいだが、王太子殿下の発言をいさめない訳にもいかないのだろう。


 単調な揺れで、ぼんやりしていた。がったん、と、馬車が停まる。もう夜らしく、どこかに泊まるとかなんとか、そういうことだった。エドゥアルデさまが不満げにしている。「船を用意すればよかった」

「またサーペントに襲われろと?」ランベールさんは言下に切って捨て、付け加える。「聖女さまを無傷で王都へ届けるのがわたしの仕事ですから、安全なほうを選ぶのみです」

「まあ……ロウセットからマイズトライルまでは、激流だからな。僕も酔うのはいやだ」

 渋々認め、エドゥアルデさまは馬車を降りる。その手にすがって、わたしも降りた。

 金のコスモスの月が、空の高い位置で煌煌と耀いている、兵達がランタンをさげ、先に立って歩いた。雪が5cmくらい積もっている。

 ロウセット邸のように、長い道はなく、すぐにお邸が見えてきた。使用人らしいひと達が出迎えてくれる。白と黄色の制服だ。「殿下」

「ああ、いい、疲れている。食事は?」

「用意しております」

 エドゥアルデさまは頷いて、屋内へ這入る。「ここは王家の別邸です。煩わしい挨拶がなくて嬉しい限りだ」


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