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お茶会、甘い


 執政官夫妻は、「部屋」の外でわたしを迎えてくれた。クライルくんも一緒で、走りこみの時とは違うきちんとした格好で、優雅にお辞儀してくれる。先導してくれた従僕は、慌てたみたいにさっと姿を消した。チュニックの前身頃に、果汁で()()ができていたから、それをどうにかするのかもしれなかった。

「ごきげんよう、聖女さま」

「ごきげんよう、レイナル執政官。お招きありがとうございます」

 何度目かわからないやりとりをし、レイナル執政官に手をとられて、わたしは歩く。ランベールさんはすぐ後ろに控えているので、なんの心配もない。

 レイナル執政官はにこやかに云う。「今日は、聖女さまがお好きだと聴いたので、将棋の道具を用意しました」

「嬉しいです」

 にこっと笑う。将棋はたまにさしていたし、クライルくんやマルゲリッテちゃんと遊んだこともあった。わたしはへぼなので、勝率は凄く悪い。

 「部屋」に這入る。サシャ卿夫妻とマルゲリッテちゃんはすでに来ていた。わたしに気付いて、マルゲリッテちゃんが元気よくやってくる。楽しいお茶会になりそうで、安堵した。


 実際は、想定した程楽しいお茶会ではなかった。お茶と、執政官のところの料理人が工夫したという芋のお菓子――――途轍もなく甘い――――を味わったところまでは、よかった。

 芋をふかした後にこして、塩と大量の砂糖をまぜこみ、更にはちみつまでいれて丸めた後、粉糖のなかで転がしたらしいとんでもない甘さのきんとんもどきは、歯が溶けそうに甘いけれど、お茶を飲めばごまかせる。あんまりお手洗いに立ちたくないので、その手もそんなにつかえはしないが、わたしは小食だと思われているようなので、残してもセーフだ。


 問題は、歓談の後にはじまった将棋だ。わたしはへぼだし、実際のところそこまで将棋が好きな訳でもないのだが、わたしが将棋を好きだと思っている執政官夫妻やサシャ卿夫妻が、やけにわたしを勝たせようとしてくれるのだ。

 そう、好きでもなし、それに負けても命をとられる訳ではないのだから、わたしは勝てなくてもそこまで悔しくない。だが、わたしがへぼで負けそうになると、皆さん遠慮しているみたいで、失敗してわたしを有利にしてくれるのだ。

 それはあんまりいい気分ではない。こちらの世界の遊びだし、わたしがうまくできないのは当然なのに、聖女だから負けさせてはいけないと思われている気がする。怒らせたら死ぬかもしれないと思われてでもいるような。

 クライルくんとマルゲリッテちゃんには遠慮がないので、わたしは負けた。負けても、実力から考えれば当然のことなので、腹がたつとか悔しいとかはない。勉強させてもらったというだけ。


 大人達の対応にあまり納得がいかず、将棋はすぐに辞めた。執政官が手を叩いて、女中や従僕を呼び、わなげの準備をさせる。これには遠慮もなにもないので(配慮のしようがないだろう)、楽しく遊んだ。わたしが手にいれたのは例の、甘さの塊かすかに芋風味、のお菓子だった。

 その後は当たり障りのない歓談があり、興味がない王都のお店の話をききながし、いとまを告げて帰った。お菓子は侍従に渡してある。忘れたふりをすれば、察してくれるだろう。

 わたし達は来た道を戻った。


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