スプライトのこと
ベッドに腰掛け、あしをぶらつかせて、両手で小さな火をみっつ、お手玉していると、扉が開いた。ランベールさんだ。疲れた顔で、新品の外套を身にまとっている。宮廷魔導士につくってもらったのだろうか。
なにか云おうとしたらしいが、ランベールさんは口を噤んだ。
コランタインさんが、焼き芋の残りを口へ詰め込む。ナタナエールさんはまだ半分も食べていなくて、もぐもぐしている。アムブロイスさんは、わたしが伝えた焼き芋のつくりかたを、細かくメモしていた。
三十秒くらいして、半眼になったランベールさんが言葉を発した。
「なにをしている?」
ごもっともな疑問だ。コランタインさんが答える。
「あめのさまが、恵んでくださいました」
「……あめのさま、どういうことでしょうか」
わたしはお手玉をやめて、火を消す。手は火ぶくれひとつなく、綺麗なものだ。
「おなか、すいてるのじゃないかしらと、思って」
ランベールさんが睨んできた。わたしは付け加える。「簡単なものです。魔力の為に、〈雫〉を用意してからつくりました」
〈雫〉を口へ含んでおいて、魔法で焼き芋を出す。すぐに〈雫〉を飲み込む、ということをやったのだ。危険はない。それに〈雫〉は飲まなくても、体に触れているだけで魔力に変化してくれる。
ランベールさんは仏頂面になる。
「任務中だぞ」
三人は項垂れ、申し訳ありません、と云う。ランベールさんはまだ仏頂面だったが、はあっと息を吐く。
「まあ、よい。空腹が過ぎると支障を来す。だが、食べすぎても支障はある。必要以上に食べぬように」
「はい、隊長」
ランベールさんの訓示に、三人は素直に頷いた。ナタナエールさんはまだ、焼き芋をはぐはぐしている。
わたしは、ランベールさんにも焼き芋をあげようかな、と一瞬考え、けれど辞めた。怒られそうだったから。
スプライト、というのはなんなのか、訊いた。ランベールさんは丁寧に説明してくれる。
「ご覧戴いた通り、光の玉のような化けものの、一種です。あれの光をまともに浴びると、危険だ……小さなものは簡単に倒せるが、大きくなると厄介です。多少の魔法は効きませんから」
それで、皆さん殴ったり切ったりしていたのか。……でも、わたしの魔法、効いたけれど。
ランベールさんは渋い顔をしている。「季節の変わり目には、必ずと云っていい程どこからかあらわれる。……それに、今日は魔力雨です。あれらは魔力の凝ったところか、ひとが大勢死んだところに引き寄せられてくる性質だ。普通は生きている人間の多いところには来ませんが、雨にうかされたのでしょう。今日のは量も多ければ、長く降っている」
魔力雨? ……さっきの雨のこと?
わたしがきょとんとしたからか、ランベールさんは訝しげにする。
「なにか?」
「……あ。えっと。魔力雨って……?」
「……〈遠く〉にはないのですか? 魔力が雨になって降ってくる現象です。通常の雨とは違ってあまり水分を含まない為、外に出ても、きがえが必要な程には濡れません。魔力によって植物が淡く光り、景色が綺麗に見えるので、王侯貴族から一般市民まで、雨の日は外で食事をとるのが習慣です」
あ……そういうことだったんだ。
慥かに、ぼんやり光っているように見える植物は、綺麗だった。あれは、魔力のおかげなのか。
「魔力雨は魔力を補います。それも、外に出る理由です。〈器〉を養い、戦いで得られる〈器〉を多くすると云う者もありますが、俗信でしょう。……なんにせよ、綺麗ですから、皆こぞって外に出たがる」




