休憩 2
「体を癒す魔法をつかえても、隊長は前線で戦っているだろう」
「まあ、あのかたは戦いすぎだと思うが」ナタナエールさんが心配そうに云う。「聖女さまをまもる任に就けば、危険は減るだろうか」
三人とも黙る。
わたしは体を起こした。ベッドがきしんだ。三人が居住まいを正すのが、レースのカーテン越しになんとなく解る。
ベッドの上を這いずっていって、カーテンを少しだけひっぱった。三人の、ばつの悪そうな顔が目にはいる。
「あめのさま」
「申し訳ありません、起こしてしまったでしょうか……」
頭を振った。
ベッドからあしを出す。寝起きで頭が重たい。ぶつぶつと口のなかで身体強化の魔法文字を唱えた。おかげで、目の焦点がはっきり合う。魔力が充分に戻ったか、体のだるさもほぼなくなり、頭はすっきりしていた。
とりあえずは、生理的な欲求を満たさなければならない。わたしは浴室へ行って、すべきことをした。それから、顔を洗い、歯を磨き、寝汗でぐっしょりの服をかえる。
多分……身体強化の魔法が、わたしに好影響を与えたのだと思う。わたしはあれを、寝る直前につかった。単に、体がだるく、足裏が痛かったのと、息が苦しいような感じがしていたからだ。
だが、寝ている間にも魔法は作用した。少なくとも、そう思える。サーペントと戦った後は、霧のなかで暫く魔力を補うまで、ここまで気分がよくなりはしなかった。相当量の〈雫〉を摂取してもだ。あの時と比べて、つかった魔法は少ないが、摂取した〈雫〉も少ない。
身体を強化したから、眠りが深くなった。そういう理解でいいだろう。
昔の聖女が長く生きたという話を思い出した。おそらくだけれど、魔法文字の組み合わせ次第で、かなり人間離れした状況をつくり出せる。それの幸不幸は別として。
兵三人が話していたのは、寝る前には部屋になかった木箱のことだ。
それは、ドレッサーのすぐ傍に、ふたつ重ねて置いてあった。衣裳箱と似ているが、やや横と奥行きの幅が狭く、高さに乏しい。蓋も、衣裳箱の蓋のように、裏返せば沢山ものをいれられそうな大きさではなくて、申し訳程度の高さだ。
コランタインさんが少々不機嫌げに箱を開けた。なかには、縁までぎっちりと、玉貨が詰まっている。おおかたは一貨だが、ほかの貨幣もあった。見たところ、一貨の次に多いのは三貨だ。
戸惑って、アムブロイスさんとナタナエールさんを仰ぐ。「……これは、なんですか?」
「化けものが落としたものです。倒したのはあめのさまですから、あめのさまのものだと、殿下が」
アムブロイスさんが云う。わたしは箱の中身を見て、また、兵ふたりを見る。
「でも……これ、どうしましょう」
「殿下から、宮廷魔導士をかしていただくのがよいのではないでしょうか」
ナタナエールさんがにこやかに云う。「王太子殿下付きの宮廷魔導士は、コンバーターを持っている筈です。これだけ玉貨があれば、あめのさまの要望を充たせましょう」
そういうものなのか。
櫛をつくってもらうのはいいかもしれない。ドレッサーに置いてあるものは、目が細かくて、癖毛を梳くには少々辛い。
自分でやってみると云う手もある。巧く行く気はまったくしないけれど。




