休憩 1
浴室できがえた。マントとドレスをぬいで、綿のワンピースを着る。装飾的ではなく、締めつける部分もない、寝間着だ。
手と顔を洗う。土の香りがした。
わたしは頭を振って水を飛ばし、コランタインさんが用意してくれた香油の壜を手にとる。数滴、掌に垂らす。壜を戻して、両手で油をあたため、顔と手に塗りつけた。あかつめくさの香りがする。
髪を手櫛で整え、浴室を出る。見張りはいつもふたりだが、今は、コランタインさん、ナタナエールさん、それに名前を知らない王室護衛隊の兵ふたりが居る。化けものとの戦いの後、わたしの亢奮状態がなかなかおさまらないと知っているから、対処できるように人数を増やしたのだろう。
櫛で髪を梳く。誰もなにも云わない。梳きおえたら、櫛をもとの位置に戻し、ベッドへ腰掛ける。ナタナエールさんが、ハーブティーのたっぷりはいったマグをくれた。わたしはありがたくそれを飲む。あたたかくて、ほっとする。
アムブロイスさんが、シェリレという兵と、名前の解らない兵と一緒に、這入ってきた。アムブロイスさんはコンバーターを抱え、シェリレさんともうひとりは、衣裳箱に似た木箱を、ふたりで持っている。
木箱がどんと床へ置かれた。アムブロイスさんは頭を軽く下げてから、ベッドにコンバーターを置く。シェリレさん達が木箱の蓋を開けると、玉貨がはいっていた。一貨から五貨まである。アムブロイスさんがそのなかから五貨を三枚とって、コンバーターへいれた。そして、ひょいとコンバーターを抱える。「あめのさま、どうぞ、お手を」
雫をくれるのだろう。わたしは妙な抵抗はせず、素直に両手を出した。アムブロイスさんがその上でコンバーターを振ると、雫がころころと出てくる。わたしの掌へぶつかって、消えた。すると、少しだけ、思考がクリアになる。
アムブロイスさんがコンバーターの向きを戻し、木箱から玉貨をとっていれる。その作業の間、わたしは自分に恢復魔法をかけ、身体強化の魔法もかけた。アムブロイスさんからもう一度雫をもらうと、今度は掌へ落ちても消えない。口に含むと消えた。
おやすみください、と云われたので、わたしは頷いて、ベッドへ体を横たえる。タッセルが解かれ、カーテンが閉じられた。これはとても、病院に似ているな、と思う。
目を瞑った。
「これをどうしろと云うんだ、殿下は」
覚醒は唐突だった。眠ったかどうかもよく解らなかったが、眠っていたようだ。そして目を覚ました。
カーテンの向こうで、兵達が喋っている。声は、アムブロイスさんと、コランタインさん、ナタナエールさんのものだ。コランタインさんはうんざりした様子だ。「吹き飛ばしたスプライトがこれを落とした、だからあめのさまのもの。それは解る。道理だ。幾らでも持って来りゃいい。でも、玉貨があったからって、あめのさまをその辺の店へつれて行って、好きなものをどうぞ、なんて云えないんだぞ。実際のとこ、店じゃなく街にも近付けない。馬車で走り抜けるだけだ」
「宮廷魔導士になにかつくらせる時に要る。それに玉貨は〈雫〉に兌換できる。あめのさまには必要なものだ」
「それだよコランタイン。あめのさまを一度危険にさらした俺が云えることじゃないのは解っているが、何故あめのさまは戦わされてる?俺達が戦う、聖女さまが傷を癒してくださる、それで充分な筈だ」




