肉弾戦
斧の刃は切れるようなものではない。そういうつくりにした。鈍器である。わたしはそれでも、一応峰をつかって、兵達のあしを払った。呆然としていたふたりがそれで転ぶ。
ナタナエールさんがきりかかってきた。このひとはずっと、わたしの力量というものを把握してくれていて、わたしがぎりぎり避けられるか避けられないかの攻撃をしてくる。お城での鍛錬の時からそうだ。
「ティエレ・パーズ・リーオ」
体よ遅く。
ナタナエールさんの動きが鈍る。魔力を多くつかいたくなかったので、効果はわずかなものだけれど、充分なすきになる。
わたしは手首を返し、斧の柄でナタナエールさんの脇腹を殴って、横方向へ飛ばした。壁へまともにぶつかり、ナタナエールさんはぐえっと呻いて床に伸びる。心配なので、一応恢復を飛ばした。
別の兵が槍を突き出してきた。聖女護衛隊は勇敢だ。わたしはジャンプして突きを避け、体重を十倍にして槍の柄に飛びのった。槍は無残にも折れ、わたしは体重をもとに戻して高く跳躍する。聖女護衛隊複数人と戦うのは分が悪い。もっとせまいところに誘い込まなくては。
斧は大振りする武器だが、わたしはこれを、まともに武器としてつかうつもりは、あまりないのだ。だってせまいし。
あちらはそれを知らないから、斧の届く範囲に不用意にはいってこない。こけおどしだけど、便利だからそれでいい。
壁を越えて落ちていくと、盾兵にまもられるようにして、弓隊が居た。壁があっては弓はつかえないようで、弦は張らず、せなかに背負っている。代わりに短めの剣を持っていた。あれでまともに戦うとは思えないから、弓以外にも遠距離攻撃の手段があるのだろう。魔法。
わたしはとりあえず、強化した足で盾を蹴った。勿論、盾のほうが何十倍も丈夫なので、わたしの足首は奇妙な方向に折れ曲がったが、盾兵には昨日の記憶がある。相当怯んだ。
わたしは足首や足の甲、足の指を恢復しながら、複数回盾を蹴りつけた。痛いけれど表情には出さない。盾兵は見るからに士気が下がっている。わたしに攻撃されていない盾兵まで、じりじりと後退しているのだ。
とっととわたしを囲んでしまえば、後ろの弓隊が攻撃を仕掛けてくれるだろうに。ううん、わたしが身動きとれなくなれば、盾のすきまから剣をさしこんで刺せばいい。それって効率がいい。
まあ、そうされたら魔法ではじきとばすつもりだけど、やってみたら巧くいくって可能性はない訳じゃない。挑戦は大事。
盾兵は基本的に避けることはない。避けたら弓隊がやられるからだ。だからわたしの蹴りはすべてあたる。身体強化で体を動かすのもはやくできるので、盾兵に巧くいなされてダメージを与えられない、ということもない。
盾そのものはたいして傷んでいないだろうが、盾を持っている兵にはかなりのダメージだ。はじめは壁でも蹴っているみたいに強い抵抗を感じたのに、今は蹴る度に盾がぐらぐらと動く。
こちらは蹴りをあてたら恢復、あてたら恢復、と繰り返しているので、痛いは痛いがあしそのものはなんともないのと同じだ。
盾の中心を狙って思いきり、足裏で蹴る。あし全部に衝撃が来たので、恢復した。盾兵がころんと転がる。




