戦闘の後処理
こうまでできるものなのかとランベールは不思議にさえ思った。
あめのが……魔法にしては非常識なくらいに大きな竜巻を発生させ、スプライトをすべて吹き飛ばした。その現場だ。
土はえぐれているし、植物はなぎ倒され、なにもかもがあらぬかたに飛んで散らばっている。なにもかもがだ。
ひとりの人間ができることと思えない。風に特化した魔導士ならあり得るかもしれないが、だとしても、これだけのことをしたら気を失うか最悪死ぬ。
だがあめのは、この後にマーリスを治療した。スプライトに気絶させられた人間をだ。スプライトの強烈な発光で気を失った人間は、激しい痙攣を起こす。意識をとり戻しても痙攣が停まらず、そのまま死ぬこともある。
それを恢復させる魔法をつかえるくらい、魔力に余裕を持たせていた、と云うことだ。それだけあめのの〈器〉は大きい。
かすかに恐怖を覚え、ランベールは頭を振った。味方ならば心強いが、そもそも〈影の左の王国〉からさらってきた、異界人だ。あの強大な力の矛先が、いつどこを向くか解らない。決して、侮ってはいけない。甘く見たら怪我をする。いや、怪我どころか、命の心配をすべきだ。まかり間違えば、国ごと滅ぼされるかもしれぬ。
「いや、やはり聖女さまは別格だったな」
エドゥアルデがのんびり歩いてきた。ランベールはそれを振り返る。「あの竜巻、離れて見ていてもおそろしかった。お前は近くに居たから、もっとおそろしかったろう?」
「……味方をおそれる理由はありません」
実際、おそれる心がわいていたのに、ランベールはそう否定した。
ランベールは王室護衛隊の隊長だから、めったなことは云えない。ここで、あめのをおそれていると云えば、後からそれがどんな形で利用されるか、解ったものではない。
あめのは異界から来た。だから、聖女でありながら兵ときやすく言葉を交わし、使用人に笑顔で礼をし、化けものと戦うなどと云い、兵ひとりの怪我を過剰に心配する。異界ではそれが普通なのだろう。もしくは、あめのが相当に優しいのだ。
ランベールは、自分の部下を治療してくれた「聖女」に、感謝している。自分も恢復魔法をつかえるが、威力はそこそこだ。それに、短時間に何度もつかうことは難しい。
サーペントと戦った時、被害は甚大だった。あめのが治療をしてくれなければ、死んだのはエーヴェだけではなかっただろう。それに、あめのが戦わなければ、船ごと沈んだ可能性もある。
あめのはランベールの部下を救い、ランベールを救った。だから、あめのの不利になる材料は提供できない。まわりにはまだ、ロウセットの兵や、使用人が大勢居る。
「寧ろ、心強い限りです。あめのさまは〈陽光の王国〉の為に戦ってくださるかたですから」
エドゥアルデはにんまりする。「そうだな。……次期ロウセット子爵?」
王太子殿下はあずまやを振り返って、いやみったらしくブルエッテに呼びかけた。ロウセット子爵は兵の指揮を執る為にあずまやをはなれ、ドナティエンは街の様子を見ると、数名の兵を連れて邸を出て行った。今、この場に居るロウセットのなかで、ブルエッテが一番偉い。
「は……はい、殿下」
しかし、ブルエッテは間近で化けものを見ることが少ないらしく、あずまやの床にへたり込んでいた。左右に妹達が、これまたへたり込んで、ブルエッテにしがみついていた。
エドゥアルデは、その辺に散らばった玉貨を示す。
「これらは聖女さまにさしあげたい。問題ないかな?」
「勿論でございます……」
ブルエッテが頭を下げ、エドゥアルデがこちらを向く。
「だ、そうだ。ランベール?」
スプライトと戦った後は、玉貨拾いか。まったく、最高だ。




