聖女土木工事する?
云うだけ云って、返事を待たずに衣装箱へ向かった。早速体裁を整えよう。みっともない格好で兵の前にあらわれようものなら、聖女らしくする努力を怠ったかどで王太子殿下に罰せられかねない。あのひとならそれくらいできる。物理的にも心理的にも。
埃っぽくなったドレスを脱ぐ。侍従がなにも云わずにそれをとりあげ、くるっとまるめて、籐かごのようなものへいれた。下着も同じコースを辿る。
「あめのさま、どうぞ」
「ありがとう」
侍従が持ってきてくれた、濡らしたタオルで、体を簡単に拭った。泥とか、血とか、そういうものが膝から下に相当付着している。地下はいいところなのだけれど、動いてみると、土埃が相当舞うのに気付いた。
何度も体重を重くして、槍の一撃を跳ね返していたから、床というか地面というか、とにかくこの空間の下部分を随分傷ませてしまったろう。あの動きの度、土が細かく舞っていたし、それでここまであしが汚れたのかな。
もし修繕が必要なら、手伝うか、宮廷魔導士にやってもらおう。サシャ卿が反省してくれたおかげで、わたしは沢山の玉貨を持っている。それを褒美にすれば、宮廷魔導士もはりきってくれる。
侍従が下着を運んできて、ベッドにひろげた。今回はスカート部分が相当ふくらんだドレスを着なくてはならないらしい。下着がすでに、ドレスのようなしろものだ。袖もストラップもない、胴体を締め付けて固定するようなタイプ。
わたしはしかし、文句を云わずにそれを身に着けた。本当に、コルセットのない世界でよかった。これの上にコルセットなんて着けさせられた日には、わたしは腰椎を傷めてしまうだろう。
それなりにきつめの胴部分に、苦労して体を押し込めた。無駄な肉が多少はとれたが、多少とれたくらいでなんとかなるものではない。身体強化がなければ、これを着るのにもっと時間がかかっただろう。
侍従がドレスを、ひとり一着ずつ持ってきた。そのままわたしに見せる。
赤緑黄色。信号みたい。
赤は明度が高くて彩度も高め、白のスタンドカラー、袖はたっぷりしていて、袖口は白ですぼまっている。スカート部分の前面に白いフリルが沢山。裾は床に届くくらいかしら。
緑はやわらかくて深い色だ。生地そのものもやわらかそう。少し白っぽいフレンチスリーブ。鎖骨ががっつり見えている。襟は白い、幅広のレースにふちどられていた。裾にも同じレースが縫いつけられていた。ほかに装飾らしい装飾はなく、シンプルだ。裾は踝までくらい。
黄色は淡くて華やか。胴体部分は単なる円筒で、袖はなく、代わりにケープみたいな、少し白っぽい黄色の布地がついている。そちらには白いぬいとりがあった。スカート部分には金糸のぬいとりがしてあって、裾はツァルレスさんが精一杯持ち上げてもまだ、床にわだかまる程、長い。
わたしは半笑いで――――三着ではなく――――三人を見て、ドレスをベッドへ置くよう指示した。三人は素直に従う。わたしはベッドサイドテーブルに手を添わせ、熱で三本、線を書く。その間に横線をひいた。木の焦げる匂いがする。これはまったく造作もない作業で、寧ろペンで書くほうが面倒なのではないかと思うくらいだ。
わたしは三人を見た。
「それぞれ別の線を選んでください」




