勝敗について
鍛錬は終了だ。これからおやつを食べる。
勝敗に関しては、こちらの棄権で、だから負けだと提案した。が、ランベールさんは納得せず、頭を振った。
「聖女さまが攻撃を辞めてくださらなければ、わたし達は負けていました」
「そうですかね?」
それは単純な疑問だったのだけれど、ランベールさんが仏頂面になってしまった。嫌味ととられたのかもしれない。
「わたしの魔力は、そろそろ底をつきそうだったのです。あの戦法では無用に魔力を消費してしまう。悪手でした」
「あれ、結構厄介でした」
本音だったのでぽろりと出てしまった。わたしは微笑む。「もう暫く続けられたら、一撃をくらっていたかもしれません」
「お誉め戴きまして……しかし、結局のところ失敗しています。それに、あと何回も、あの攻撃はできなかったでしょう。第一に聖女さまは即座に対策をたてられた。やはり、〈器〉の大きさに顕著な差があると、勝負にすらならない。同程度の〈器〉の相手に対してとるべき戦術でした」
最後は溜め息まじりだった。そこまで差があったのだろうか。わたしにはあまり、実感がない。
ランベールさんが譲らず、ランベールさんの組の役付の兵達もそれを支持したので、わたしの組の勝ちで収まった。
わたしの〈器〉の大きさは、鍛錬前からランベールさんは解っていた筈だ。それでも、実践形式の鍛錬にしたり、わたしと別の組を率いて効果のありそうな作戦を練ったり、大変な努力である。真似できない。
昨日のことはまだ、くすぶっているけれど、だからといってランベールさんのすべてを否定するつもりはない。ランベールさんは、その地位に相応しい人間であるよう努力をしている。
なにかへ挑みでもするように。
新兵と従僕達が走りまわっている。兵達は、ここでおやつをとるのだ。テーブルが運ばれ、またつくられしている。兵達は水を出して顔を洗ったり、どこかへひきあげていったりする。すぐに戻ってくるから、手洗いか、服をきがえたらしい。
それを横目に見て、わたしは「居間」へ向かう。ランベールさんと侍従、宮廷魔導士、医者がついてくる。わたしは髪を手櫛で簡単に払い、ついでに恢復魔法をかける。かける前から、指通りは悪くなかったが、もっと滑らかになった。どうせならストレートヘアになってくれればいいのだけれど、イメージの貧困なわたしのことだ。失敗の予感がして仕方ない。
「おやつには、何人か招きましょう」
「聖女さま」
呆れたような声だ。わたしは隣の、ランベールさんを見詰める。彼はこれに弱い。案の定、渋々だが頷いた。
衝立の奥へ行った。「きがえます」
数人の足が停まる。ついてきたのは侍従と医者だ。わたしは「寝室」のまわりの、衝立の間を通る。それから、くるっと振り向いた。ランベールさんや聖女護衛隊の兵が、わたしをしっかり見ていた。消えるとでも思っているのだろうか?
「最前列で、持ち場を離れずに戦う姿勢を見せた盾兵達を、招きます。鎧が破損した者を優先し、成る丈別の小隊や中隊所属の兵を。それと、ジラードゥクス師団長も。テーブルはヴァグエット先生が用意してください。招くのは十人程度です。ランベールさんも同席を」
 




