スプライト 1
「拙いぞ」
エーミレさんが焦った声を出し、ツェレスタンさん、王太子護衛隊の残りふたりと一緒に飛び出していった、ランベールさんが席を立ち、それに続く。
王太子殿下は頬杖をついて、ランベールさんを後ろ姿を、にやにやして見ていた。
ロウセット家は席を立って、渡り廊下のほうへとじりじり後退る。宮廷魔導士は、ふたりとも、エドゥアルデさまのすぐ後ろにつけた。
あずまやから15mくらい離れたところで、兵達は、光の玉をなんとかしようとしていた。数が増え、しかも、サッカーボールサイズもみっつくらい居て、難儀しているみたいだ。あれはなんなのだろう?セントエルモの火?
ひとつが強烈な光を放った。目が眩む。一番近くに居たマーリスさんが、目許を庇ってずでんとしりもちをつき、そのまま倒れた。「マーリス!」アムブロイスさんが駈け寄るが、サッカーボールサイズふたつに邪魔された。小さいのと違い、大きいのは攻撃的で、アムブロイスさんに体当たりする。
あっけにとられていたわたしは我に返り、慌てて席を立った。あずまやを飛び出す。ロウセット子爵が叫ぶ。「聖女さま!」
屋根の下から出た。雨粒は細かい。それに、不思議なことに、体にあたってもあまり濡れなかった。地面もぬかるんでいない。
走りながら、アムブロイスさんを襲う光の玉を指さした。「ルァング・スピリ・アン・クワ」
冷たい風で乾燥しろ。
ひとつがぱんと弾け、玉貨が散らばった。ツェレスタンさんが剣を振りまわしながら云う。
「あめのさま、来ないでください!危険です!」
わたしはそれを無視して、別の光の玉を指さした。
「スピリ・アン・ルァング」
竜巻で弾けろ。光の玉がぱちんと弾け、玉貨を散らして消える。
気付くと、光の玉はまだまだ増えていた。ビーチボールくらいあるのがよっつ、それより大きいのがふたつ。どこからか武装したひと達があらわれ、光の玉と戦っている。ロウセット家の兵だろう。お揃いの外套だ。
マーリスさんはまだ起きない。アムブロイスさんが後頭部に体当たりをくらって呻いた。外套が破れている。エーミレさんはずぼんが裂けて、太腿から血が流れていた。
わたしは息を整える。「吹き飛ばします」
「退避!」
ランベールさんが叫び、マーリスさんの襟首をひっ掴んであずまやへ走っていった。ロウセット家の兵は、動揺した様子ながら蜘蛛の子を散らすようにその場から離れた。ツェレスタンさんとエーミレさんが王太子護衛隊をひとりずつ、アムブロイスさんが両腕でふたり、タックルをかけるみたいにしてランベールさんへ続く。
わたしは、丁度うまい具合にこちらへ向かってきた光の玉の集団を、指さした。
「タァム・スピリ・パーズ・マァイ、ジェイ」
大規模な竜巻よ行け、強く。
ごおっと、風が渦巻いた。髪が風に巻き上げられ、ドレスの裾が翻り、マントが千切れそうにはためく。わたしの目の前で、木の葉や千切れた草や木の枝や雨粒を巻き上げ、どんどん大きくなる。どんどん、どんどん、どんどん……。
竜巻が前進していく。土がえぐれ、散らばる。誰かがなにか叫んだ。わたしは瞬きせずに竜巻を、そしてその向こうに居る光の玉を見ている。
光の玉がひとつ、竜巻に飲み込まれた。ぐるぐるとまわって、何週目かで見えなくなる。竜巻は次々、光の玉を飲み込んだ。耳鳴りがする。
竜巻はもはや、上が見えないくらいに大きくなっている。髪が視野を塞いでいる。竜巻は周囲のいろんなものを巻き込んで、灰茶になっている。
終わりは突然だった。竜巻は空へ吸いこまれるみたいにするっと消えた。




