ふつふつ
重さで叩き潰すのなら両手剣のほうがいいのだろうが、いかんせん重い。
同じ重いのなら、斧のほうがつかい勝手がいい。先端に重さが集中しているからか、振りまわした時に勢いがつきやすい気がするのだ。刃が鈍くても勢いと重さでなんとかなる。
……軍にあるのは、両手剣のほうが多いかもしれないな。斧を装備した部隊は見たことがない気がする。両手剣の部隊は、何回か。
そうなると、両手剣をつかう練習もするべきかな。兵が一般的につかっているものは、一度すべて、つかってみる?
遠征出発前の鍛錬は、期間が短かった。戦闘の訓練以外に、魔法の練習もあったし、更にわたしのわがままで乗馬訓練をいれたことで、時間が圧迫された。
遠征前に鍛錬でつかった武器は、片手剣と槍くらいだ。ランベールさんはもしかしたら、別の武器を扱う練習をする予定を、立ててくれていたのかもしれない。
でも、乗馬練習は必要なことだった。あのおかげで、戦闘時にまっさきに前線まで駈けていける。
魔法で走って行くのも、とんで行くのもできるが、馬のせなかにのっているということは、その分高さが上乗せされるということだ。人間サイズの相手になら、圧倒的に有利になる。マーダーウッドには近付けないだろうし、ピルバグもいやがっていたけれど、そういうばけものばかりではないだろう。馬は役に立つ。
試行錯誤して、なんとなくつかえそうな格好の片手剣ができた頃に、侍従がふたりやってきた。鍛錬の準備が整ったそうだ。わたしは頷いて、報せてくれた礼を云い、髪をもう一度梳かした。それから、簡単にハーフアップにして、二本足のかんざしでとめる。まともな格好をしていたい。少なくともまともに見える格好を。
一番まともなできの片手剣を手に、「寝室」を出た。
「居間」には、ランベールさんが居た。左右に聖女護衛隊の兵を侍らせ、いつも通りの仏頂面で立っている。そう。いつも通り。
「聖女さま、おはようございます」
「おはようございます、ランベールさん」
わたしはにっこり笑って応じた。声も同じだ。わたしも同じ。
昨夜のことは、なかった、のだ。だから、わたしも、いつも通りにしていないといけない。へらへらして、狼狽えて、まごついて、おどおどしていないといけないのだ。
機嫌悪く居丈高に振る舞って昨夜のことを思い出したくない。折角、多少はましな気分になっているのだから。
ランベールさんは、わたしの態度に、表情をかえなかった。普段と同じだ。当然だがあちらも、昨夜のことは忘れたいに違いない。
あんなもの、ついうっかりではすまされない失言である。おそらくどころか確実に、〈陽光の王国〉憲章に違反するだろう。ランベールさんを嫌っている勢力にとって、ランベールさんを排除するかっこうの理由になる。
わたしはまだ腹をたてているみたいだが、ランベールさんを困らせるつもりはない。
そんなことしたって無駄でしょう?
なんの意味もない。
わたしは小首を傾げる。「ランベールさんも一緒ですか?」
「……ええ」
「なにをするんでしょう」
「走りこみと、ふた組に分かれて打ち合いを」
わたしは頷いて、忘れていたものを魔法で生じさせた。片手剣の鞘だ。




