武器のこと
サシャ卿はさぞや、不本意だと思う。出自も解らない怪しい女に、持っている玉貨の半分も渡さなくてはならないのだから。
少し、いい気味だ、と思っている。宜しくない。こういう思考は、後から自分にダメージがある。
この玉貨は、次の会戦にでも、有効活用させてもらおう。サシャ卿は不本意だろうけれど、戦闘でつかうのだから、結局は〈陽光の王国〉の為にはなる。それを望んでいるだろうから、文句はなしということで。
「お疲れさまです」
わたしは、玉貨を運んできた従者達へ、にっこりと笑いかけた。「さっきは脅かしてしまったし、少し休んでいってください。アルバンさん、お茶を出してさしあげて」
アルバンさんは微笑んで、そのようにしてくれた。ただし、従者達は天幕の外へ出される。そちらでお茶と、なにかお菓子を出してくれるそうだ。単なるお遣いは、聖女と朝食をともにするような栄誉には浴せないのである。
いやな気分がもたげる。
わたしは食事を終えて、「寝室」で歯を磨いて顔を洗い、走った所為で汗びっしょりの服をかえた。
やはり、締め付けの少ないドレスを選ぶ。落ち着いた黄色と淡い茶色がベースで、白いフリルがついている。宮廷魔導士達は、わたしにはこういうものが似合うと思っているのだろうが、似合う自信はない。わたしはそんなに可愛くない。
兵達の鍛錬まで、少し時間があった。どうしてだけしらないけれど、少しだけお待ちくださいと侍従達に云われたのだ。だから、ベッドに腰掛けて、武器をつくった。ある程度はつかえるようになっておきたいので、片手剣を。
斧はつかいやすいし、仮に折れたり破損したりしても、自分でつくれるから支障はない。ないが……それは、魔力が充分ある状態に限っての話だ。
実際の戦場では、魔力が乏しくなる場面は多々あった。敵の数が多くて武器をつくる余裕がなかったり、補給部隊が来られない場所での戦闘や、そもそも奇襲で補給なんて期待できない場合だ。
そういう時は、成る丈、魔力を温存したい。というか、攻撃もしくは恢復につかいたい。だから、その場に斧がなかったら、もしくは持っている斧がだめになったら、わたしは徒手空拳になってしまう。
勿論、奇襲でもなければ短剣は持っているだろうが、マーダーウッド相手に短剣で戦うのはどう考えても分が悪い。そして、大きなばけものが、マーダーウッドやスニーキーワームだけとは限らない。
兵達の多くがつかっていて、実際佩いている片手剣は、沢山備蓄されているらしい。奇襲されたとしても簡単に手にはいるだろう。自軍のものでなくても、その辺の武器屋にだってあるだろうし、なんなら敵から奪ってもいい。リザードマンは武器をつかっているし、いずれわたしは対人戦へも行くことになるのだろうし。
片手剣を扱えれば、わたしの生存確率は上がるし、わたしをまもろうとして兵達が死ぬ確率は下がる。
片手剣は、あまり巧くつくれなかった。イメージが貧弱なのだ。もとの世界では、武器を間近に見る機会なんて、そうそうなかった。
素材としては、単純に、鋼にした。切れ味は求めていないので、色々と工夫する必要はない。戦いなら、身体強化は確実にかけているから、殴るもしくは叩き潰す役割をしてもらう。




