朝食 4
エドゥアルデさまとロウセット子爵、ドナティエンさん、ランベールさんで、南の国境について会話している。〈陽光の王国〉の南に〈影の左の王国〉があり、頻繁に武力衝突が起こっているようだ。最近、化けものが大勢あらわれて、国境に駐屯していた両軍ともに甚大な被害をうけた。
エドゥアルデさまが、ロウセット三姉妹を見る。
「植物に関する魔法は、兵站に欠かせない。姪御さんがたを軍にいれるおつもりは?」
ロウセット子爵が気色ばんだ。かちゃんとフォークをとり落としている。
「殿下、ご冗談を!あの子達はまだ成年にも達していません。それに、ツァンテイルは今年中に結婚が決まっています」
「では、末の子を出せばいい。エドヴィージェ、どうだい?毎日、食糧をつくり続けるだけだ。〈雫〉は支給されるし、前線からは離れていて、危険も少ない。それに兵站はお手当がよいらしい。月に五貨1枚と四貨10枚だとか。その髪の為に充分な額だ」
十代の子の片方が、赤くなって首をすくめた。うすい茶色の、細かいカールをつけた髪を、頭の高い位置でひとつにまとめている。きらきらした宝石のピンを、装飾的に挿していた。
髪飾りをつけているだけで単なるポニーテールだが、あれだけの綺麗なカールなら、自前ではないだろう。何時間もかけてセットしたに違いない。そう云うのにかかるお金はまかなえると、エドゥアルデさまは当てつけたのだ。
エドヴィージェさんはか細い声を出した。「わたくしは、戦いに行くのは、こわいです」
「戦い?兵站は戦ってはいないな。補給係ですよ。要するに、彼らとかわりない」
エドゥアルデさまは、給仕をしている使用人を示した。「戦場では、前線に出ない貴族の子どもより、敵兵を何人か殺してきた一般市民のほうが、偉いのです。僕は、場合によっては兵というのは玉貨よりも価値があると、そう考えている。だから、兵の性質上戦って死ぬのは仕方ないが、飢えて死ぬのはまったく我慢がならない。その為には兵站をきちんと用意したい。そういうことですよ」
王太子殿下はにっこりした。
「ま、考えておいてください。兵の食糧をまかなったとあらば、勇敢なお嬢さんだと、よい縁談もあるかもしれない。あなたの云う戦場には、貴族の子息も大勢居るのでね」
雨が勢いを増してきた。風が吹き込み、王太子殿下は目を細める。
「どうやら、あしどめをくらったみたいだな。ランベール、くわせ者め」
「立ち往生したかったのですか?」
「ふふ、お前は僕にくちごたえをしないものだと思っていたよ」
エドゥアルデさまはランベールさんの鼻をつまみ、けけっと笑った。
「まあ、いい。明日にはかわっているだろう。お前の助言に従って、ロウセット子爵に馬車をかしてくれと乞うさ」
ぱちぱちと静電気のような音がして、三姉妹の下のふたりが小さく悲鳴をあげて抱き合う。ブルエッテさんも凍り付いていた。
視線を辿ると、あずまやの外、小雨のなかを、光の玉のようなものが漂っていた。野球ボールかそれより小さくて、ぱちぱちと放電している。色合いは、黄色とオレンジ、時折紫。よく見ると、エチゼンクラゲのような形状をしている。
マーリスさんとアムブロイスさん、王太子護衛隊のふたりが外に出て、武器で切りつけたり殴ったりした。ドナティエンさんが妻を宥める。「心配ない、あの大きさならすぐに消えてしまうよ」
「スプライトがこんなところにまで這入りこむとは……」
ロウセット子爵が嘆いた。




