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朝食 3


 やはり、味がおいしくて安全そうな、人参といんげん豆の炒めものを、お匙で掬っていると、ロウセット子爵が云った。

「聖女さま、わたくしはシヴィッレ・ロウセット、子爵でございます。昨夜はなのりもせず、失礼をいたしました」

「あなたは初めから無礼だった」ばらばらにしたステーキをふたきれ、フォークで突き刺して、エドゥアルデさまは淡々と云う。「聖女さまも、無礼な人間が尚更に礼を失しようと、気にはなさらないだろう。ロウセット子爵、僕が聖女さまの立場であれば、あなたのことは早々に見限っている」

「殿下」

「ああ、ランベール、お前は冗談が通じないな。わたしが本気で云っているとでも?」

 エドゥアルデさまはそう云って発作的な笑い声を立てたが、わたしは冗談だとは思えなかった。ロウセット子爵もだろう、指環をしきりといじっている。今日は、四貨のはまった指環だった。


 わたしは手を停める。自己紹介しようと思ったのに、その前にロウセット子爵が隣を示した。

「これは、わたくしの次男、ドナティエンでございます。去年まで、ロウセット軍とともに王都へ駐屯しておりましたが、結婚したので休みを戴いております」

 ドナティエンさんが頭を下げる。続いて、子爵は次男の隣の女性を示した。

「前ロウセット子爵であるわたくしの姉の、長女、ブルエッテ。ドナティエンの妻です」

 ブルエッテさんが頭を下げた。それから、自分の隣を示す。

「妹達です。ツァンテイルと、エドヴィージェ……」

「どちらも耕作や植物に関する魔法を扱えます」言葉を失ったブルエッテさんにかわって、ドナティエンさんが喋った。「この庭も、彼女達が半分以上つくりました。お気に召したのなら、案内させましょう」

 凄いですね、くらい云いたかったが、王太子殿下が遮る。

「ロウセット子爵、ご長男達のことも話されては?」

「は……はい。長男のダミエンと、三男のイグナティエは、ロウセット軍とともに、王都におります。ダミエンは水に関する魔法を、イグナティエは植物に関する魔法をつかえます」

「水も植物も、戦場では必要になる。あなたの息子さんがたは、兵站としてはそれなりにつかえるな」

 王太子殿下はそう評価を下し、にまにまする。「それにしても、なんと忠義に篤いかただろうあなたは。前子爵の娘に爵位を継がせるつもりでいるのだから、頭が下がる。子どもが爵位を継ぐというのは当然のことだ。宮廷には、あなたをみならうべき人物が居ますよ」

「殿下、なんということを」

 ロウセット子爵があおざめ、その子どもと姪達も首をすくめた。エドゥアルデさまはにまにましたままだ。

「うん?僕はなにかおかしなことを云ったかな。いや、実はフィリムラン侯爵が、功績をあげていないことを理由に、甥御を南の国境へ配備させたがっているのでね。そちらで功をあげよという意味なのかもしれないが、僕にはどうも、〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉軍と衝突して死んでしまえばいいと思っているように感じるもので……ランベール、お前もそう思うだろう。フィリムラン侯爵は、自分の長男に跡を継がせたいようなのでね」

 なにか別のことを仄めかしたと思ったのだろう、ロウセット子爵は狼狽える。ランベールさんが呆れたように云った。

「殿下、フィリムラン侯爵を侮辱したと咎められます」

「ああ、それは皆が口を噤んでいればいいことだろう。ロウセット子爵、まさかフィリムラン侯爵へ告げ口などしないでしょう?もしされたら僕は困ったことになる」

 ロウセット子爵が顔を俯け、わたくしはなにも聴いておりません、と云った。


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