花束
マデロンさんや、レイナル執政官、女中や従僕達も呼ばれ、景品をうけとっていく。絹地を二疋とか、五貨30枚だとか、「あたり」と思しいものばかりだ。重たいものやかさばるものは、ここで直に渡すのではなく、後で運ぶそう。
わたしの番が来た。「聖女さま」
「わたくしがうけとります」
侍従がさっと前に出る。しかし、サシャ卿がひらひらと手を振った。「これは聖女さまの景品ですから」
「しかし」
「聖女さまに直に渡すのが、なんぞ問題あるでしょうか。それとも我らはなにか疑われているので?」
侍従が詰まる。聖女にものを手渡しするのは、憲章違反ではないらしい。学んだ。
本を持ったままのランベールさんが行こうとしたが、わたしは先んじて前に出た。「疑いなんて、ありません」
「おお、安心いたしました。なんぞ無礼があったかと、怯えましたよ」
サシャ卿はにこっとする。なんとなく欺瞞を感じる。
疑われているのはこっちだ。そう考えると、気楽になる。これ以上このひとの、わたしに対する評価は落ちない。
人間というのは、敬意を払われたら相応のものを返す生きものだ。無意味に敵視してくるひとに歩調を合わせてあげる必要はない。
微笑みを返す。
「なにをひきあてたのか、とっても楽しみです」
「聖女さまはこういった遊びがお好きなのですね」
「はい。サシャ卿は、くじびきやわなげを、楽しいとは思わないのですか?」
わたしが質問を返すのは予想外だったのか、サシャ卿は戸惑ったような表情を一瞬うかべる。しかし、すぐに微笑みに戻った。
「あまりのめりこむのもよくないのでは……」
「だったら、催さなければ宜しいのに」
にっこり笑った。「ご冗談を云っているのですね」
サシャ卿は言葉に詰まる。わたしに対して反射的に反対意見を云ってしまったのだろうが、迂闊だった。それくらい敵意を持たれているんだなあ、と、うんざりする。
サシャ卿の奥さんが、慌ててとりつくろった。
「あなた、あまり軽口を叩いては、聖女さまが戸惑ってしまわれます」
「あ、ああ。失礼いたしました、聖女さま。どうも、宮廷を辞してからこちら、つまらないことを云ってしまう癖があるようで」
「面白かったですよ」
実際のところ、面白かった。なんというか、飛んできたボールを綺麗に打ち返せたような気分だ。痛快? 爽快?
サシャ卿は軽く咳払いして、仕切り直した。
「では。聖女さまのひきあてた景品は、こちらです」
サシャ卿の従僕が運んできたのは、花束だ。小振りな、白い百合と黄色い百合、白いかすみ草、白いばらで構成されている。麻紐で括られただけで、紙やなんかで包んでいたりはしない。
わたしはそれを見て、ちょっと顔をしかめた。百合のしべには、たっぷりの黄色い花粉がついている。かなり昔に、百合の花粉で鼻がぐづついたことがあるのを思いだした。あれは結構つらい。今回は大丈夫だといいのだが。
サシャ卿が従僕から花束をうけとり、わたしへさしだす。わたしは両手でそれをうけた。紙に包まれては居ないから、しっかり持たないとばらけてしまいそうだ。
そして、ぱっととりおとす。
花束にするのなら、ばらの棘は落としておくものだろうに、花束を用意した人間はそれを怠ったらしい。両手に幾つか、棘が刺さっていた。




