朝食 2
ロウセット子爵が目を伏せがちにして云った。「殿下、昨夜は聖女さまになのることさえせず、無礼だったと反省しております。わたくしと、この子達に、いまいちど機会をお与えくださいませんか?」
王太子殿下は背凭れへ身を預け、にんまりした。
「好きにするといい。だが、僕は空腹なのでね。食事にはいってからだ」
「ありがとうございます……」
ロウセット子爵が頭を下げる。エドゥアルデさまが手を叩き、使用人が、戸棚みたいなものから、湯気の立つ料理ののったお皿をとりだした。あれって、岡持みたいなものだったのか。
すでに、フォークやナイフ、水差しやゴブレットは、テーブルに用意されている。使用人達が次々とお皿を並べ、テーブルの上はあっという間に埋まった。
エドゥアルデさまが姿勢をただす。
「〈重たい炎〉に、日々の糧をお与えくださる感謝をささげ、今日もその眼差しに見まもられ、その熱でもって我らの命がひき続き存在することを願って、祈りをおくりましょう」
全員、思いおもいの格好で、暫く黙る。目を瞑るひと、立ち上がって屋根の下から出ていくひと、テーブルへ両手を置いてその上へ額を当てるひと、様々だ。わたしはどうしようもないので、黙ってじっとしていた。
五分程で、エドゥアルデさまが云った。「おききいれくださるか、日が落ちるのを楽しみに。それでは戴こう」
それを合図に、皆、好きな順で食べる。牛肉らしいステーキからとびでている骨を左手で軽く掴み、エドゥアルデさまがにっこりして、わたしへ云う。
「聖女さま、特製のものをご用意しました。無論、気にいらねば、残して戴いて結構です。ですが気にいるでしょう。昨夜、しっかりと、ランベールからあなたの好みを聴きだしたのでね」
「殿下」
ランベールさんがエドゥアルデさまの手を骨からはがした。手巾を掴ませ、嚙んで含めるように云う。「手が汚れます。手巾をつかってください」
「まったく、口煩いな、ランベールは」
言葉に反して、エドゥアルデさまの声は嬉しそうだ。実際、手巾越しに骨を掴み、右手に持ったナイフで解体をはじめる。
わたしは、目の前に並んだものを見た。
ふかしたさつま芋とかぼちゃ。きのこ類と豆が沢山はいったスープ。塩こしょうと油がかかった、葉物野菜のサラダ。炒めた人参といんげん豆。小皿にはいった灰色の塩。フルーツの盛られたかごには、小振りなナイフが添えられている。
慥かに、とても安全そうだった。水差しがみっつあるのがこわいけれど。
ふかしたかぼちゃを、ナイフとフォークで解体した。ひとくち食べると、ぱさついていて、あまり味がしない。塩をちょんとつけて食べると、なんとか飲みこめる味にはなった。お芋も、あんまり味がしない。ふかす、と云う調理法に、慣れていないのかもしれない。
スープは鼻先まで持っていって、戻した。動物性のものでだしをとっている気がしたからだ。何度も発作を起こしたくない。発作が治まったら全部がもとに戻るという訳ではないのだ。小さな発作でも、繰り返せばあとに響く。なら、安全策をとるまでだ。
葉物野菜のサラダはとてもおいしかった。しゃきしゃきと歯触りのいいレタスやちしゃが、食べやすいよう細かめに千切ってあるのが嬉しい。塩加減も絶妙だった。




