朝食 1
半端に開いた扉から、紺を基調にした服装の、使用人が這入ってきた。「殿下がお呼びです。お越しください」
あの服のひと達は、ここのお邸の使用人の筈だけれど……王太子ならば、誰に命令をしようと、ゆるされるのかもしれない。
ロウセット家の皆さんが、一列になって出ていく。わたしは階段を降りて、最後に戸口を潜っていったロウセット子爵のせなかを追った。
吹き込んでくる風が冷たい、と思ったら、雨の所為だった。しとしとと霧雨が降っていて、けれど空はそんなにくらくない。湿気でぼんやり光る植物が綺麗だ。これは、雨だから外へ出よう、と云う気持ちも、解る。
ポーチから右へと折れる。アムブロイスさんがこぼした。「濃度が高いな」
「そろそろ季節が変わるのさ」
「こんななかを、殿下は本気で移動するつもりか?」
マーリスさんが首をすくめる。
会話の意味がよく解らない。濃度ってなんだろう。
張り出した庇の下を暫く行くと、建物から遠ざかるように伸びる、屋根だけの渡り廊下みたいなものがあった。木製の支柱に、つたを編み込んだような屋根がのっている。
下を通る。すきまはあるが、雨粒はほぼ、落ちてこない。それに、どうせ風が横から雨を運んでくるので、上からのものはあまり気にならなかった。大前提として、わたしは前後左右を、自分より大柄な兵に囲まれているのである。申し訳ないけれど、風や雨の大半を彼らが防いでくれた。
雨に濡れて、ぼんやり光って見える庭木を眺めながら、三分も歩くと、大きなあずまやが見えてきた。木製の支柱なのは同じだが、屋根はがらすだ。大きな丸テーブルが用意され、すでにエドゥアルデさまが席に着いている。その横に、直した痕のある外套で、ランベールさんが立っていた。反対側に、宮廷魔導士がふたり。王太子護衛隊(なのだろう、多分)の兵も、四人、それぞれ別の支柱の傍に、仁王立ちしている。それから勿論、使用人も数名。戸棚みたいなもののすぐ横に立っている。
エドゥアルデさまは機嫌がいいみたいで、テーブルに頬杖をつき、にやにやしていた。ランベールさんが、脇に控えた使用人になにか云う。使用人がかしこまった。
ロウセット家の皆さんが、あずまやに辿りついた順に、エドゥアルデさまへ挨拶する。お辞儀と一言二言で、エドゥアルデさまはひらひらと片手を振り、続きを云わせない。全員に対してその調子だった。挨拶が終わると、皆、着席している。
わたしもエドゥアルデさまの傍まで行ったが、挨拶どころではなかった。
「これはこれは」ぱっと、王太子殿下は嬉しそうに立ち上がって、わたしの手をとる。「聖女さま、いやお美しい。やはり、あの衣裳ではあなたの魅力が半減していたようです……ローイス、褒美をとらせる。アッセルマンにある玉貨鉱床のうち、みっつは僕のものだ。四月の産出分はお前にやろう」
宮廷魔導士が、相当に感激した様子で、ぺこぺこと頭を下げる。エドゥアルデさまはにっこりして、宮廷魔導士を支柱傍までさがらせ、わたしを隣に座らせた。手をはなさず、肩越しにランベールさんを見る。「ランベール、お前も座れ」
「はい、殿下」
ランベールさんは平坦な調子で返事をして、エドゥアルデさまの隣に座る。その隣は、椅子をひとつ空けてロウセット子爵。そこから、ドナティエンさん、昨夜も居た女性、十代の女性ふたり、椅子がふたつあってわたし。




