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来客


 地上に出た兵は、地上階で避難しているひとから、空白の様子をきいて戻る。まずそうなら避難誘導する。そう決まっているそうだ。地上の様子も知れる、と思うと、ちょっと呼吸が楽になった。地上で避難しているひと達は、安心して居るだろうか。


 満腹になったらしいスゥーリーを、檻へ戻した。扉を閉めて錠を下ろしても、スゥーリーに気にした様子はない。クッションにうつぶせになって、おもちゃがわりの玉貨を前肢で撫でている。〈雫〉だと消えてなくなってしまうし、と思って、玉貨を数枚いれておいたのだ。〈雫〉に対するような執着は見せないが、気にいらない訳でもないみたい。

 医者が指示し、侍従がマグを持ってきた。中身は葛湯だ。本葛……かは不明だが、葛湯の体裁は整っている。とろりとして、あたたかく、甘い。

 わたし好みの穏やかな甘さのそれを、匙で掬って飲む。侍従が手ずからつくってくれた、アレルギー発作の心配がないものだ。葛に対しても、片栗粉に対しても、コーンスターチに対しても、わたしは発作を起こさない。

 ランベールさんは昨夜、遅くまでわたしの警護にあたっていたそうで、今日はまだ姿を見せてくれない。もしかしたら、アルバンさんと一緒に、執政官の料理人のところへ行ったのかもしれなかった。


 ほとんどからになったマグをベッドサイドテーブルへ置いた時、外から声がした。数人で喋っている。アルバンさん達が戻ったのだろうか、と思ったが、身体強化でよくなった耳が、高い声を拾った。

「聖女さまに会いに来た」

 あらら。クライルくんだ。どうしたのだろう。女中の処分に対する抗議かしら、と、ちょっと心配になる。だとしたら、わたしが出たらまずいことになるかもしれない。

 しかし、別の音を聴いて、わたしは寸の間思考停止した。あの鳴き声は、ギモーヴ?

 わたしは立ち上がり、居間へと向かう。マルゲリッテちゃんも一緒なのだ。もしかしたら、ご両親からわたしのことを聴いたのだろうか? それで会いに来たのだとしたら、むげに追い返すのは忍びない。スゥーリーに会いたいのかもしれないし、返してと云われたら返すつもりだ。幼い子どもから大切なものをとりあげるようなことはしたくない。「あめのさま」

 マントを手にした侍従が追いかけてくる。うけとってはおり、リボンを結んだ。しかし、侍従は尚も追い縋る。

「もう少し横になっていて戴きませんと」

「大丈夫です。……おはようございます皆さん」

 居間には王領警備部隊の兵が三人、頭を抱えていた。三人にとり囲まれるようにして、緊張した面持ちのクライルくんとマルゲリッテちゃんが、隣り合って立っている。マルゲリッテちゃんは、両腕でしっかりと、ギモーヴを抱きかかえていた。


 クライルくんもマルゲリッテちゃんも、膝をついてのお辞儀をした。どちらも高位の家の子女だ。こういった礼儀作法は叩きこまれているのだろう。動きは優美で、滑らか、非の打ち所がない。「ごきげんうるわしゅうございます、聖女さま」

 わたしは軽く頷く。

「ごきげんよう。ブライセさん、あたたかいお茶を用意してください」

「は? はあ……はい、かしこまりました」

 ブライセさんがどこかへ消える。わたしは円卓の椅子をひいて、微笑んでみせた。「ふたりとも、朝のお茶につきあってくれますか?」


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