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原因不明


 それにしても、一体なににはいっていたんだろう? まったく解らない。

 緊張感があって、味を覚えていない料理もある。しっかり味のついたサフランライスはおいしかったし、だしは野菜くずからとっているっぽかったから、あれは違う。カットフルーツは単なるカットフルーツだし、わたしがアレルギーを起こす要素はない。くだものにアレルギーを起こすひとも居るけれど、今のところ、わたしは問題らしい問題はない。

 水も水でしかないし……あやしいのは、お芋とレーズンを煮たものと、豆のスープ、かな。

 単に、フルーツのどれかにアレルギーを起こした可能性もある。それまで平気で食べていても、突然アレルゲンになるのは、経験があるから。


 ドゥピュイス先生は頭をふりふり、ベッドサイドテーブルを利用して、羊皮紙になにかを書きつけた。多分、カルテだ。恢復(かいふく)魔法があっても、こうやって薬も出てくるし、カルテも管理している。医療事情はそれなりにいい、のかもしれない。

「アルバン卿、なにか書くものを戴けますか?」

「はい」

 わたしの足を洗っていたアルバンさんが、立ち上がった。ブライセさんが櫛を置いて、わたしの足を拭う。わたしは裸足のまま飛び出したのだ。心配されて当然である。


 アルバンさんは一旦出て行き、羊皮紙を手に戻った。ブライセさんが金襴のくつを持ってきて、はかせてくれる。一応、室内履きだ。内側の絹がやわらかくてあたたかい。ブライセさんとツァルレスさんは、櫛や髪油の壜を、所定の位置へ戻す。本棚の手前の一角に、そういったものがまとめておいてある。スゥーリーの檻が左端、櫛やなにかが右端にまとめてあるのだ。

「どうもありがとう……」

 医者は、アルバンさんからさらの羊皮紙をうけとり、そちらにもなにやら書く。長めの文章だった。書くのに時間をかけている。

 それから、アルバンさんへとその羊皮紙をさしだす。

「これを、執政官へ。勿論、聖女さまが食べられないものの一覧は、向こうへ送っているのでしたね?」

「当然です」

 アルバンさんが目を剝いた。ドゥピュイス先生は片手で制す。「や、言葉が悪かったようです。あなたがたの働きについて、わたしはまったく疑っていない。単に、確認したにすぎません」

 アルバンさんは満足げに頷く。しかし、すぐに表情が険しくなった。眉間の皺が深い。

「あめのさまの召し上がれないものを、そうと解っていて出したのであれば、重大な憲章違反です。聖女さまの身を傷付けようとするのは、王家に弓を引くのと同じ。民に対する反逆でもあります」


 そんな大袈裟な、と思ったけれど、聖女は化けものを退治し、王家にはいって優秀な子どもを産むのが仕事だ。王家、ひいてはそれに庇護されている国民の、大事な()()である。その聖女を損なおうとするのは、国家に対する反逆行為で、間違いない。

「そして、一覧は渡していたのですから、解っていない訳がない。これはあめのさまの召し上がるものに対して気をぬいていた、我らの手落ちでもあります。ランベール卿が手を下さずとも、侍従一同で料理人に引導を渡すつもりです」

 侍従達は随分腹をたてているようだ。怒った口調のアルバンさんに、残りふたりは深く頷いている。わたしは云う。

「昨夜の食事が原因とは限りません」


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