外見を取り繕う
トイレにたてこもって、解毒と恢復を駆使し、なんとか危機は脱する。解毒魔法をつかえる程の魔力、というか、想像力と気力が残っていてよかった。醜態はさらしたくない。
「聖女さま、大丈夫ですか? ドゥピュイス師が来てくれましたよ」
すでにさらしているようだ。扉の向こうから、そう、アルバンさんの声がする。最低の四乗。
わたしは魔法で出した水で口をゆすぎ、歯磨きに似せた魔法をかけて、吐いたことをごまかそうとする。目に溜まった涙は、袖口で拭った。
わたしが体調を崩したとなれば、鍛錬はわたしぬきで行われる。それは困る。武器の観察をしたい。折角、自分が役に立てそうなことを思い付いたのだから、すぐに実行に移したいのだ。空白の期間は、自分の鍛錬の期間だと思っている。
そうでも思っていないとやっていられない。だから、自分がやっていることは無駄ではないと思いたい。その為には、やってみせて、誰かに認めてもらわなくちゃ。
ランベールさん辺りが適任だろう。
それに、昨夜の食事が原因かもしれないなんて、口が裂けても云えない。料理人がどうなるか、解ったものではない。
昨夜おなかが冷えてしまったみたい、で、いくしかない。でも恢復魔法でよくなった。それでおしとおす。
簡単に手も綺麗にして、扉を開け、トイレを出る。見張りの兵四人と、侍従がふたり、ドゥピュイス先生、宮廷魔導士ひとりの計八人が、わたしを見てほっと息を吐いた。
「部屋」へひったてられた。「寝室」でベッドに寝かされて診察をうけ、恢復魔法をかけてもらい、更に湯薬を戴いた。問診はほとんどなくて、いいわけの機会もだからなかった。
それなりにきちんとしたドレスにきがえて、ベッドに腰掛け、湯薬をふうふうさまして服む。じゃりじゃりするのは石膏か、牡蠣か、そんなところかな。味はまろやかで、ほのかに甘酸っぱい。ほんのわずかにとろみがあった。舌にまといつく感じが、あまり好きではない。
アレルギー発作はわたしの見た目に悪影響を及ぼしているようで、ブライセさんツァルレスさんのふたりがかりで、わたしの髪を丁寧に梳かしている。香りの少ない髪油をつけて、まず荒い櫛で梳き、段々と櫛の目を細かくしていく。きがえやお風呂に、後ろを向いているといえ男性が居ても平気なのに、髪を触られるのはいまいち慣れなかった。わたしは自分の感覚がよく解らない。
わたしを見ながら、椅子に座ったドゥピュイス先生は、かなり不快そうに顔をしかめている。
「昨夜の食事に、なにか、召し上がれないものがはいっていましたね?」
わたしは口を噤む。違うと云いたいのだが、巧く言葉が出てこない。こういう場面は苦手なのだ。結局、にやっと笑って、小首を傾げる。おしとおすもなにもなかった。
侍従達はむっとしているし、見張りの四人は啞然とした様子だ。
わたしが食べられないものは向こうへ伝えていたらしいし、食べられないものを出さない約束だった。それを破られたかもしれないとなったら、侍従達がむっとするのは解る。慥か、食べる前にチェックするとも云っていたし……まあ、アレルギーのあるわたし自身が、目で見て解らなかったから、どうしようもないのだけれど。




