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師団長のフォロー


 残りのふたりは、それぞれ〈槙の門〉と〈柳の門〉で功があった。片方は恢復(かいふく)魔法で味方を助け、片方はデバフ魔法で敵の一団をおしとどめたそうだ。戦闘続きで兵が不足しているといったって、みんなそれなりに戦える。魔法という便利なものがあるのだもの。

 恢復(かいふく)魔法の評価が高いのは、解る気がした。応急処置といったって、もとの世界のものとは段違いだ。血はすぐにとまるし、小さな傷なら跡形もなく消える。それが応急処置である。

 医師の姿がないのは、直接戦闘に関わらなかったから……かな。補給部隊も居ないと困るものだが、今回は姿がない。そういえば、〈榛の門〉の近辺では、補給部隊らしいものを見かけなかった。兵の配置がまずかった、ということだ。


「聖女さまがどれだけのお働きをされたか、この目で見たかったものです」

 なんとなく、雑談らしいものが続き、わたしは黙って豆のスープを飲んでいた。そこで、ジラードゥクス師団長が云い、注目される。

 サシャ卿の私兵達の目付きは、怪しむようなものから、疑うようなものへかわっていた。なにか、こちらの世界らしくないところがあるのだろう。そんなものを要求されても困る。わたしが聖女です!! 崇めなさい!! と強硬に云っているのでもないのだから、放っておいてもらいたい。

 国が認めた聖女なのだ。それに疑いをかければ、命を無駄にする。それはこの国で暮らしているひと達が一番理解しているだろうに、どうしてわざわざ薮をつついて蛇を出すようなことをしたがるのだろう。


 名前が覚えられない、功をあげた兵ふたりも、値踏みするような感じだった。

 わたしの見た目はそんなにも、聖女らしくないのだろうか。(たし)かに、美人ではないし、可愛げのない、いつも眠そうな顔をしているし、プロポーションがいい訳ではないけれど、なんというか「聖女らしくない」だけで人格まで否定されている気分になるのはなんだろう。というか、人権がないような扱いをされている気がする。

 それは聖女として扱われたって同じだなと気付いた。どちらにせよ人権はない。わたしは云われた通り戦って戦って戦うだけだ。

 そもそもわたしだって自分が聖女だなんて思ってない。でもそう云われたし、聖女としての仕事をしないと死ぬであろうひと達が居るから、なんとかやってきた。

 聖女だと云うことになっているのだから、それで飲み込んでくれないものだろうか。わたしはこれ以上、聖女か聖女ではないかで議論が起こったり、誰かが処分されたり、無駄な争いにまきこまれるのはいやだ。だから、放っておいてくれたらいい。

 

 わたしは手をおろす。居心地が悪い。とても。

「たいしたことではありません」

「なにを仰言います。リザードマンと戦った時も、聖女さまはおひとりで、王領警備部隊の二師団、いえ、三師団に相当する程のお働きをされたではありませんか」

 どうやら、ジラードゥクス師団長も、サシャ卿達からの疑いの視線に気付いているらしい。だから、庇うようなことを云ってくれるのだ。

 いや、兵を庇う為、かな。〈槙の門〉と〈柳の門〉で功をあげたふたりが、わたしに対して()()なことを云わないよう、先手を打った。聖女の働きを誉めることで。


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