魔法に必要な魔力量のこと
ふたりは言葉を交わし、ナタナエールさんが出て行った。わたしは手のなかの焼き芋を見詰める。
コランタインさんが微笑んだ。「あめのさま、召し上がりたいのならどうぞ。勿論、体に障るものではないのでしょう?」
頷く。食べてもいいのなら、食べよう。この世界ではなのか、この国ではなのか知らないが、招聘されてからご飯は一日二回で、夕方くらいから激しい空腹に襲われる。今日は、馬車移動中だったから、おやつ(ふかしたお芋とか、炒り豆とか)もなかった。
だから遠慮なく、焼き芋をかじった。ほっくりしていて、水分が少なめで、おいしい。なんとも具合のいいことに、ハーブティーと相性ぴったりで、気付くと半分食べている。こんなにおいしい焼き芋、久し振りに食べた。前はよく、お遣いの帰りに焼き芋屋さんに寄って、大きな焼き芋を買っていた。店先のベンチに座って、半分に割って、姉と一緒に食べた。どちらが大きいかで、喧嘩したこともある。寒い時期に奮発して、何種類か買ったことも。
いつか姉が、もう食べきれないからと譲ってくれた、あの焼き芋が一番おいしかった。
焼き芋がなくなる頃、ナタナエールさんが戻ってきた。コンバーターを持っている。コランタインさんが投入口へ三貨を数枚いれ、ナタナエールさんがさかしまにして振る。コランタインさんの手の上に、小雫が何個か転がった。
コランタインさんはこちらへやってくる。片膝をついて、小雫をさしだす。
「あめのさま、どうぞ」
魔力を補え、ということだろう。わたしは小雫をつまみとる。触った感じに乏しい。全部で5個。まとめて口へいれた。
いつかと違って、消えてなくなりはしない。でも、味もなければ香りもないし、口のなかの温度と同じくらいの温度に感じる。
服む。咽を越えた感覚がしなかった。なんだか、中途半端なところで、消えた。
ふたりが低声で喋っている。「あまり……では」
「……隊長へ……」
断片しか聴きとれないし、内容はよく解らなかった。
ナタナエールさんが、もう一杯、ハーブティーを淹れてくれた。お礼を云って、飲む。
コランタインさんが、ハーブティーを飲むわたしの傍に、片膝をついた。コランタインさんは、オレンジっぽい茶色の髪を乱雑に切って、左耳にだけ金属製のピアスを幾つもつけている、二十三・四歳の男性だ。
「あめのさま。きちんとした指導をうけずに、食糧を生じさせるのは、あまり安全な行いとは云えません。お控えください」
「え……あぶないんですか?」
アムブロイスさんやエーミレさんは、毎日のように食材を出していると聴いたから、危ないものとは思わなかったのだけれど。
コランタインさんは微笑む。
「アムブロイス達が生じさせるのは、調理前の食糧です。であれば、〈器〉の小さな者であっても、危険はありません。油や、せっけん、ナタナエールの得手の飲料、特に酒などは、それよりは少し高度です。ツェレスタンの布は、調理前の食糧に比べれば、十倍から十五倍程度魔力を消耗します。調理後の食糧は、布と同等かそれ以上」
そんなに差があるんだ。
聴く限り、加工されたものをつくるほうが、魔力を消耗するみたい。工程が多い場合は余計に。だから、切って、炒めて、味をつけて、みたいに、複雑な工程を経てできあがる料理は、気軽につくろうとしてはいけないものらしい。
焼き芋は、お芋を焼いただけだし……大丈夫だと思う。なので、複雑なものはつくらない、とだけ、約束した。




