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自分で自分が解らない


 空気があたたかい。

 右へカーヴする階段を降りながら、下へ行く程あたたかくなるのに気付いた。なんだか意外なことのように感じたが、地下だから多分、あたたかいのは当然なのだ。わたしはちょっと、ほっとした。寒かったらいやだと頭の片隅でおそれていたみたいだ。自分がなにを考えているのか、解らない時がある。自分でもコントロールできない時があるのだ。


 地下にはたいまつはなく、魔法の灯が浮いていた。誰かがやってくれたということだ。わたしの為なのか、それが普通なのかは、判断しかねるけれど……あんまり、地下で火を焚くというのは、推奨されないのではないだろうか。中毒しそうだもの。

「あめのさまのお部屋は手前に」

 ほんの二歩先を歩くアルバンさんが、一瞬振り返った。「奥まったところはなにかと不便です。空気も淀みますし、湿気が滞る。その点手前ならば、空白に合間が来たら、すぐに外へ出られますよ」

 どうやら、いい場所をとってくれたらしい。お花見みたいだなと頭をよぎり、すぐに打ち消す。

 わたしはどう返したらいいか解らなくて、はあ、とかなんとか云った。いい場所を用意してくれてありがとう、とか、気を遣わせてごめんなさい、とか、云うべきなのだろうか。

 侍従はわたしの反応の悪さにがっかりした様子はなく、長いらせん階段を降りきると、嬉しそうに右手を示した。

「あちらです」


 わたしは頷いたが、足は停まっていた。地下だが、やはり天井は高い。そして、そこに魔法の灯が幾つも浮いている光景は、幻想的だった。

 明るい色の石を積んだ壁と、石を張った床だ。骨組みには太い木が用いられている。階段は木製だった。ただし、大人数でつかっても、きしみひとつ立てない。なにかしらの魔法でつくられているのだろう。

 壁にところどころ、5から10cm四方の穴が開き、近場のものを覗きこんでみると、その穴はずっと奥まで続いている。おそらく、空気とりの穴だ。どこかの地点で上へと折れるのだと思う。魔法ならできる芸当だ。

 まっすぐで、しかも大きな穴をこの空間へ通してしまったら、雨が降り込む。だから、細くて、折れ曲がった穴なのだ。多分。同じ理屈で、あかりとりの窓はないのだろう。少なくとも、目視はできなかった。

 それと、壁にはなにかを置く為らしいスペースも、幾らかあった。壁がえぐれたようになっているのだ。

 それらのひろさはまちまちで、おそらく燭台を置くであろうせまいスペースもあれば、本棚としてつかえそうなひろいスペースもある。もしくは、その前に椅子を置いて座れば、机がわりにもなるかもしれない。勉強につかえるな。


 思っていたよりも快適そう、というのが、第一印象だった。地下へこもる、という説明の時に、ランベールさんにしても侍従にしても、しきりと申し訳なそうにしていた。だから、余程酷いところなのか、とかすかに警戒していたのだ。そこでこもるしかないならたえるだけなので、その後は深く考えないようにしてはいたが、心配は心配だった。

 しかし、思っていたのの数十倍は快適そうだし、綺麗だった。なんとなく、空気が悪いのを想像していたのだ。しかし、かび臭いとか、埃っぽいとか、そういったことはまったくない。空気はあたたかくて軽く、やわらかい。


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