ばけものチート
〈雫〉と玉貨は色んなばけものが体内に持っていて、おそらく魔力の供給に一役買っている。人間と違って、ばけものが〈雫〉に触ってもすぐには魔力へはかわらないし、ばけものによっては玉貨を体内で〈雫〉に兌換できる。実際は、解ってないだけで、多くのばけものがそれをできるという可能性も考えられている。そういえば、スゥーリーも、〈雫〉を持っていてもなにも起こらなかった。スゥーリーは、ばけものではないし……あれは、スゥーリーの魔力がすでに上限いっぱいまであったから、かなあ。
それに、おそろしいことに、マーダーウッドというのは人間を食べる(!)。というか、結構な種類のばけものが、人間を食糧にしている。慥か、ワイバーンは人間の頭をひっこぬくんだっけ。食べる為だったりするのかしら。スニーキーワームも人間を食べるそうだし、もしかして、リザードマン戦の時、兵の遺骸が迅速に回収され、王都へ送られたのは、遺骸をその……損壊される可能性があったからだろうか。
とにかく、人間を捕食するばけものは多い。だから、ばけものを殺しておなかを割いたら、食べられた人間が持っていた玉貨がごろごろ出てくる、なんてこともある、らしい。人間は当然ながら消化されてしまうそうなのだが、玉貨は胃液に限らず、どんなものでも溶かすことはできないのだ。
玉貨は溶けない。時間をかけてもだめだし、硫酸や塩酸、王水でもだめ。壁だの金属だのでも平気で溶かす、悪名高いスニーキーワームの毒液であっても、表面が曇りさえしない。
玉貨鉱床でとれたのではない、普通の宝石の原石を、きちんと対応する玉貨の形状に加工したら、加工した途端に同じ現象が起こる。傷はつくのかもしれないが、溶かせない。それは神の加護をうけているからなのだそうだ。こちらの世界では、そんなふうな不思議な現象が多くあるから、神さまが身近だしみんな信じているのだろう。
ばけものが人間のように、玉貨を取引につかうことはないようだから(リザードマンはそういった行動が目撃されたことがあるみたいだが、確実に取引だったのかは判断つかないので保留)、持っていていざという時に備えるくらいしか使い途はあるまい。だから、ばけものが玉貨を体内にとどめているのは、それを〈雫〉にかえられるばけものに限らず、そのままでも魔力のもとになるから、というのが有力なのだそうだ。
ランベールさんは学者の友達から、そういったことを聴いて知っていた。それに、軍でも似たようなことを教わるらしい。軍のなかには、在野の学者も裸足で逃げ出すくらい、ばけものの知識が豊富なひとがごろごろ居る。ランベールさんに尋ねたら教えてくれた。しつこくくいさがってききだした情報だ。
だから、リザードマン戦の時には、戦闘が終わってリザードマンが一時撤退すると、その度に兵を大勢動員して、兵の遺骸を回収するだけでなく、リザードマンの遺骸を埋める、という作業も急ピッチでやっていた。時間があれば玉貨を回収するが、余裕がないので埋めたのだ。リザードマンが戻ってきて、仲間の遺骸を回収し、そのなかにある玉貨を利用するかもしれないから。これまでの、ばけものとの戦いでも、その度になんらかの手は講じてきたらしい。




