魔力の感知 2
「ミングレイ・メスト・ウィン」
木にあたれ。
単純な構文で、イメージもしやすい。基本に忠実な三文字の文章だ。単純明快、とても解りやすい、拍手!
魔法の、というか、魔法文字の便利さが身に染みる。こんなに楽なんだ。こんなに。
わたしはゆっくりと手をおろす。拍手はしなかった。でも思わず、わあ、と小さく歓声をあげていた。
舞い上がった金属は、風を切ってマーダーウッド達へ降り注ぐ。わたしの望み通り、殺傷力のあるであろう鋭い形状へと変化した金属が、ばけものめがけて落ちていく。
短剣、金串、包丁? どれだろう。20から30cmくらいの長さで、厚みはそれぞれだ。太さもまちまち。でもどれも尖っていて、刺さったらとても痛いに違いない。
なかには、おそらくもともと剣だったのだろう、不釣り合いに大きな鍔がついていたり、折れた木製の柄がついた槍の穂があったり、する。
それらを目でしっかり捉えられた。身体強化がよかったかな。さっき、ふらついたのは、身体強化が切れてしまったのかもしれない。宜しくないことだ。身体強化にはもう少し、きちんと気を配らねばなるまい。わたしが倒れたりしようものなら、大勢が叱責され、降格や減給、下手をしたら首を切られかねない。比喩でなく物理的にも。
内心反省するわたしの視界で、武器の雨が、冷風に半分凍ったマーダーウッド達を切り裂いていった。
まだまだ尽きない力がある。体のなかからわき起こる風のようなものだ。もしくは、体の奥底に絶えず揺らめいている、炎のようなもの。
それは流れる水のようでもあり、生い茂る雑草のようでもあり、変化する光や影のようでもあり、不動の岩のようでもある。なんと表現したらいいのか解らない。なにかだ。なにか
とにかく、それはそこにあって、手を伸ばせば届いて、自由につかえる。尽きることがない。わたしの動力源らしい。まるで、深く深く根を張って、思う存分栄養と水を吸いとり、枝をひろげる木のように、わたしはどこからかそれを供給されている。
空気中からか。
どうしようもない笑いがこみあげた。
わたしはわたしだが、なんらかの装置のような気がしてくる。わたしを介して魔力が顕在化するというような。
空転する思考のまま、肩にまわされたランベールさんの腕を掴む。恢復魔法をかけた。ランベールさんと、自分に。今までになく気分がよくなる。魔法の効き目があがっていた。なにがよかったのだろう。魔力が充分にあり、魔法が特に巧くいくだけの精神的な余裕がある、のだろうか。
「あめのさま」
「だいじょうぶ」辿々しい喋りかたになってしまった。わたしは笑いを怺える。「すぐにおわります」
「もう魔法をつかうのは、やめたほうがいい」
今までで一番、不安げで、心配そうな声だった。
ランベールさんの腕を軽く叩く。かたい金属の籠手が、からからと響いた。こんな重たそうなものを身に着けて、あんなに敏捷に動けるなんて、身体強化をつかっているのかしら?
「まだ、すべてが死んだのでは、ありません」
口が巧く動かなかった。あいた手で口許を触り、重点的に恢復する。冷たい風で強張ってしまったらしいから。
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