薪割り 2
暫くすると、わたしが叩き割ったマーダーウッドについた火が、燃え盛りはじめた。流石に、仲間だったといえ死んでいるものについた火までどうこうするひまは、生きているマーダーウッドにはなかったようだ。まあ、魔法をつかってくる人間がそこかしこに居るのだ。サイズで云えば、巨大なマーダーウッドが圧倒的に有利だが、枝の届かない遠距離から魔法で攻撃されるのはいやだろうし、幼木をまもることも考えないといけない。その情況で、仲間の遺骸にまで目を配れまい。
マーダーウッドは予想通りよく燃えた。ゆらゆらと、赤と黄色とオレンジの炎が、揺れている。薪にできないものかな。空白の間、寒い時に暖炉にくべられるように。
幹は横からだと切れないが、枝はそうでもない。
ふと、そのことに気付いた。唐竹割りにする時に、生い茂った枝葉を一緒くたに切ってしまっているようで、一本伐採すると枝がごろごろ転がっているのだ。わたしが斧で叩き切ったとしか考えられない。
幼木が切りやすいのと同じ理屈かな。まだ若い部分は、水分が多く、やわらかいらしい。たけのこみたいだ。もしかしたら、栄養補給したマーダーウッドの若い枝は、切ったら樹脂や樹液が沢山出てくるのかもしれない。幼木のように。
しかし、切る手応えがほとんどなかった。枝を切っていることにも気付かず、幹がかたい、としか考えていなかったのだ。でも、ついでに枝が切れている。かなりやわらかいのだろう。
幼木はこれよりもっとやわらかいのかもしれない。それなら、短剣を打ち込めば、多少は効くかもしれない。わたしは地面に降りて、ホルダーから短剣をぬき、必中と云いながら幼木へ向かって打ち出した。
予想はあたって、幼木はまんなかより少しした辺りですぱんと切れた。短剣はそのまま飛んでいき、成木にあたってはね返る。短剣ではかなわないようだ。やはり、かたさが違う。
しかし、必中だけだったので、魔力をだいぶもっていかれた。三文字つなげるのが一般的だというのがよく解る。三文字以下でも、三文字以上でも、魔力の消費は激しい。特に、一文字だけだと、相当減る。何故、三文字より一文字のほうが魔力が減るのか、不思議だ。
幼木は死んだらしく、ゆっくりと倒れていく。根を半分地面につっこんでいたから、そちらへ向かって。
わたしはふらついて、斧をとり落とす。急激に頭痛が酷くなったのだ。イメージをまともにかためず、一文字だけつかったのは、無謀だった。ばかだ。補給部隊が居れば、〈雫〉をもらえるのに。今はとにかく〈雫〉がほしい。魔力が足りない!
片膝をついたわたしに、マーダーウッドの成木が枝を振り下ろした。避けるには体が重いし、身体強化をつかえるだけの魔力がない。魔法で攻撃するのも不可能だ。短剣をつかうこともできないし、打ったところで幹に防がれてなんいもならない。聖女もここでお仕舞だろうか。
それでもなんとか、体を低くして避けようと思った時だ。何故か頭痛が和らいだ。
「あめのさま!」
成木の枝が切り落とされる。ランベールさんが剣でやったらしい。見えてはいたが、理解が追っつかない。
わたしは呻いて立ち上がる。手についた土をぱっぱっと払い落とす。




