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ロウセット邸 3


 きゃーっとドナティエンさんの隣で女性が叫ぶ。

 わたしはエドゥアルデさまを突き飛ばして、ランベールさんへと駈け寄った。今のは多分、(スピリ)だ。風の魔法だ。どうして?どうしてランベールさんを?

 ランベールさんの傍に両膝をついた。ランベールさんは、右肩がずたずたに裂け、相当な量出血している。頭や口からも血を流して、呼吸は浅い。苦しそうに唸っていた。

「殿下、なんてことを!」

 ロウセット子爵が喚いている。「ランベール卿は王位継承権を持っているのですよ!そのかたを傷付けるのは憲章に違反します!」

「そのような古い掟をご存じか」

 エドゥアルデさまが笑っている。わたしはランベールさんの肩の傷口へ、両手を当てる。口からの出血は、口腔の傷か、呼吸器の傷か、それとも食道や胃になにか悪影響が?

 なんでもいい。肉体・(ティエレ・)を・修復しろ(ビイ・タァム)と云うだけ。

 だからそう云った。そのようになった。


 ランベールさんの呼吸が安定する。震える手で、制服の袖口をつかい、ランベールさんの頭から流れる血を拭った。出血自体はおさまっている。それでも、まだ苦しそうに見えたので、もう一度魔法をつかった。

 怒っていると自覚する。

 どうして、他国へのりこんで聖女を捕まえる、なんて難しい任務をきちんとこなした、ランベールさんに、こんな仕打ちを?

 なにか云おうと思った。王太子殿下へ。だから、立とうとした。

 ランベールさんがわたしの左手首をがっちり掴む。わたしはランベールさんへ目を戻した。ランベールさんは辛そうに、ごくっと唾を()んで、しっかり頭を振る。

 王太子殿下にたてつくな、ということ、だろうか。わたしは手を振り解こうとするが、ランベールさんの力は強い。

 息をのんでかたまっていた兵達が来て、ランベールさんが体を起こす手伝いをした。わたしは立ちあがる。


 エドゥアルデさまが、にやにやして、気怠げに首を動かした。ぱきぱきと音がする。

 ロウセット子爵はまっさおで、今にも倒れそうだ。ドナティエンさんと女性は、ひしっとくっついて、手を握りあっている。

「随分魔力をつかってしまったな。ロウセット子爵、これで疑いは晴れたでしょうか?あなたが聖女さまに疑いをかけるなぞという、罰当たりな行動をとっていたとして、の話ですが?先程引き合いに出された〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉憲章にも、救世の聖女さま御子さまに対しての不敬は厳に禁じ、とりしまるとあるが」

「……申し訳ありません。ですが、決して、侮辱した訳ではございません。愚かにも聖女さまでないと思い込んだのです」

「これは上等ないいぬけかただ」

 エドゥアルデさまは楽しそうに笑う。

 ランベールさんが立ち上がった。「殿下」

「ああ、すまなかった、ランベール」エドゥアルデさまは甘ったるい声を出した。「しかし、ロウセット子爵を納得させるには、このような手しかなかったのだ。聖女さまは素晴らしい恢復(かいふく)の魔法をつかえるからね。だから、今の方法が悪くなかったというのは、お前にだって解るだろう?僕のランベール」

 ドナティエンさん達が赤くなった。ロウセット子爵は苦々しげだ。

 ランベールさんは真顔だった。

「承知しています。ですから、避けませんでした」

「うん、いい子だねランベール。ご褒美を増やしてあげよう」

 エドゥアルデさまは満足そうに息を吐いて、ランベールさんを手招く。ランベールさんは、血にまみれた格好のまま、エドゥアルデさまへ近付いていく。「とりあえずは食事だな。ロウセット子爵、勿論、王室護衛隊隊長の、ランベール卿も、招かれているのだろう?」

 ロウセット子爵は、はい、と云った。


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