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聖女、謝罪する


 従僕が斧をつくっている間に、わたしは短剣を拾い集め、従僕がくれたホルダーにさしこんで、腰へ括り付ける。ドレスのポケットにもつっこんでおいた。マーダーウッドはわたしの襲撃で腰がひけたのか、隊列を組み直しているのか、今はこちらへ走ってはいない。

 従僕達はわたしの世話を焼くのが最優先の仕事と考えているらしく、ゴブレットにたっぷりの〈雫〉をくれた。「どうもありがとう」

「滅相もございません、お嬢さま」

 従僕は深く頭を下げ、わたしは〈雫〉をあおる。すべて口のなかへいれてしまうと、頭痛が消えた。飲みこめはしなかったが、そもそも魔力がそこまで失われてはいなかったようだ。それとも、空気中の魔力が多くなっているのだろうか。だとしたら、マーダーウッドにも有利に働くのでは?

 従僕へもう一度お礼を云い、ゴブレットを返す。従僕達はお菓子やお酒もすすめてくれたが、どれも笑顔で頭を振って断った。たまごや牛乳たっぷりの小麦粉のお菓子は、おいしそうだけれど食べられはしない。

 かつては好きだったし、今もおいしそうだとは思うけれど、同時に苦手だ。幾らおいしいからって発作はこわい。好きなひとから攻撃されたら嫌いになるだろう。


 視野の端になにかが映り、目を遣ると、大隊長がこちらへ歩いてきていた。かなり顔色が悪い。目が血走っていた。

 化けものはまだ十分の一程度しか倒せていない。ありがたいことに今は進軍を停めているが、次動き出したら、防壁へ到達されかねない。弓兵の数がざっと300人くらいだから、歩兵と騎兵は下手をしたら1000人を下まわる。傭兵は居るが、軍で訓練を積んでいる訳ではないから、能力にはとてもむらがあるし、大勢で隊列を組むような情況にはなれていないだろう。指揮を執る立場なら、顔色も悪くなる。

 下でなにか騒ぎが起こったようだ。


 声とあしおとがする。肩をいからせて防壁へ上がってきたランベールさんに、兵も従僕も居住まいを正す。「ラクールレル隊長」

「あめのさま」

 ランベールさんは後もう少しのところまでわたしに接近していた大隊長を、まるきり無視して、軽く睨むみたいにわたしを見た。わたしは小首を傾げ、見詰め返す。叱られるのだろうけれど、じっと見詰めるとこのひとは目を逸らすから、それで叱責が和らがないかなという目算である。

 ランベールさんは髪が乱れていた。呼吸も少し。急いでやってきたのだろう。背後には、コランタインさんとアムブロイスさんが控え、はらはらした表情になっている。

 しかし、ランベールさんは予想を裏切った。すっと優雅な動作で片膝をつき、首を垂れたのだ。


 コランタインさんとアムブロイスさんが慌てて片膝をつき、ランベールさんのように頭を下げる。

「申し訳ありません、聖女さま。このランベール、聖女護衛隊隊長として一生の不覚。聖女さまをおひとりにするなど……」

 ランベールさんが聖女聖女と連呼するので、周囲の兵や従僕、傭兵までびくつく。わたしは微笑む。「いえ、こちらこそ、飛び出してきてしまってごめんなさい」

「なにをおっしゃいますか。聖女さまがこの街をまもる為に戦ってくださるのなら、我々兵士は喜んで付き従うのみ。それを、連絡が混乱していたとはいえ、出遅れるなど……はじでしかありません。どうぞ、お叱りください」


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