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ロウセット邸 2


 吃驚した。じゃあ……このひとが、ロウセット子爵。女性が爵位を持てるのか。

 ロウセット子爵はかすかに怒っているような顔で、くいと顎をしゃくった。着飾った男女がさーっとその横に並ぶ。

 ロウセット子爵は頷いて、エドゥアルデさまへ目を戻す。

「まともな出迎えもできず、失礼を致しました」

「いや、いや。ドナティエン達が悪いのではないさ。ただ、僕は行く先々で、ああいう()()()()()口上を聴かされ続けているので、正直飽きているんだ。つまらなすぎて身の毛がよだつ。ここではつい何日か前に聴いたので、必要ないかと思ってね」

 王太子殿下のにやにや笑いに、子爵は目許を険しくしたが、顔を軽く俯けた。ランベールさんが咳払いする。

「おっと、口が過ぎたな。君らが悪いのじゃない。あの、型にはまりきった口上というやつが悪いんだ」

「……お食事は用意しております」

「それはいい。ここの西瓜酒はなかなかのものですよ、聖女さま」


 ばっ、と、ロウセット家の三人がわたしを見た。一様に目を瞠っている。それから、三秒くらいで、困惑げな顔になったのも同じだ。

「殿下……」男性が声を出した。男女はふたりとも、ロウセット子爵と同じ色の髪だから、子ども達かもしれない。「いまなんと?」

「聖女さまと云った」

「まさか」

 ロウセット子爵が声を震わせた。男性が目をぱちぱちさせ、呻くように云う。

「てっきり、殿下の悪ふざけかと」

 ロウセット子爵が、平手で容赦なく、男性の頬を叩いた。ぴちゃん、と高い音がして、男性は赤くなった頬に手を遣る。

 ロウセット子爵は、エドゥアルデさまへ頭を下げる。

「申し訳ございません、この子は愚か故に、適切な言葉が見付かる前に話しはじめてしまうのです」

「そうだろうか?僕のやっていることは、大半は悪ふざけだ。ドナティエンを誉めてやるといい。ご子息は大変に適切な言葉を選び出した」

 ドナティエンさんが深々と頭を下げた。エドゥアルデさまはちっちっと舌を打つ。

「そういうのは戴けないな。……それで、シヴィッレ・ロウセット、あなたは彼女が聖女であることに疑問が?」

「そ。……そのようなことはございません」

「しかし、まさかと云った。僕の個人的な見解だが、この言葉には大抵、そんなことはあり得ない、だとか、冗談だろう、というような、否定的な言葉がくっついてくるものだが」

 微笑みを浮かべて淡々と云うエドゥアルデさまに対し、ロウセット子爵は苦しそうな表情だ。右手で、左手の中指にはまった、一貨の指環をいじっている。

 王太子殿下が追い打ちをかけた。

「率直なところをうかがいたい。彼女になにか、文句でも?」

「文句だなんて、まさか」

 ロウセット子爵は、しまった、と云わんばかり、顔をしかめた。エドゥアルデさまはにんまりする。

「まさか、その通りです、と云いたいのかな。それとも、まさか、そうではありません、だろうか。どちらにしても、おかしなことにはなるね」

「……申し訳ございません。正直に申し上げますと、殿下がお気にいりの女性に、異界ふうの格好をさせているものと思いました」

 ロウセット子爵は、悔しそうに付け加える。「しかし、聖女さまというのは、冷たい灰色の髪に紺と橙の瞳と伝わっています」

「それは、()()()()聖女さまに疑義があると?そうとっていいだろうか」

「そんな……」

「つまらぬ疑いをかけられたものだ」

 エドゥアルデさまがランベールさんを手招いた。ランベールさんがすっと歩いてくる。

 エドゥアルデさまはわたしから離れ、ランベールさんの肩へ、なんだか愛しそうに手を置いた。

 次の瞬間、ランベールさんがふき飛び、春の模様のタペストリーへぶつかって、床にベしゃんと倒れた。


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