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ランベール、王太子をいさめる


 長いながい恐怖の時間の後、馬車が停まった。

 外から扉が開かれる。おそらく、ほかにも馬車なり馬なりが用意されていて、一緒に来たのだろう、コランタインさんだった。


 ランベールさんとコランタインさんが低声(こごえ)で言葉を交わし、ランベールさんがこちらを向く。仏頂面だ。

「今日はここまでです」

 エドゥアルデさまはわたしの髪をいじりながら、笑い含みに返す。

「つれないことを云うのだな、ランベール?」

「いつ、冬になってもおかしくない。それは解るでしょう」

 なにか違和感のあるせりふだったが、わたしが疑問をさしはさむ前にエドゥアルデさまがちっと舌を打った。

「ああ、まったく忌々しい。結局ロウセットの間抜け面を拝まなきゃならないのか」

「エドゥアルデ」ランベールさんが声を低めた。腰を屈め、座面に片手をついて、エドゥアルデさまの耳許に口を寄せる。「言動を慎め。お前の後始末をする為に、我ら王室護衛隊はあるのではない」

「まったく、可愛いことを云うのだね、ランベールは」

 ランベールさんの言葉は不敬だと思うし、それにかなり脅していたのに、エドゥアルデさまにはなにもこたえた様子はない。どころか、にんまりして、ランベールさんの髪をひと房掬いあげた。

 ちゅっとわざとらしく音を立てて口付ける。ランベールさんのいやそうな顔。

「まあ、お前が居るなら、ロウセットもめったなことは云わぬだろう。剣聖どの」

「……納得戴けたようですね」

 ランベールさんはすっと、エドゥアルデさまから離れる。「子爵邸へ行きます」


 エドゥアルデさまは足を組み、膝の上にわたしの手を置く。

「明日、冬になったらどうするんだい?」

「子爵が馬車を融通してくれるでしょう」

「聖女さまに、()()()な子爵の馬車で王都へお越し戴けと?」

 エドゥアルデさまはにやにやして、睨んでくるランベールさんを見ている。

 手をくすぐられた。

「おっと、言動を慎まねば。まあ、いいだろう。一介の子爵がそのような栄誉に浴したとあらば、貴族達が発奮する」

 ランベールさんは不快げに鼻に皺を寄せ、くるっと背を向けた。コランタインさんへ指示をして、扉を閉める。馬車が動き出した。

 エドゥアルデさまはわたしを見る。淡い紫の瞳で。

 秀でた額が女性的な印象を与えているようだ。やわらかく輪郭をふちどる金の髪も。

 エドゥアルデさまは呆れたような声を出す。

「この衣裳は、あなたには似合わないな」制服の上着をつままれた。「肥って見える。多少、野暮ったいくらいなら、聖女さまの清らかさが目立ってよいのだけれど……ランベール、王室護衛隊はまともな衣裳もつくれないのか」

「あめのさまがその衣裳をお好みです」

「ふうん? 女というのは、自分をよく見せることに心血を注ぐものじゃあないのか? 彼女に化粧は必要ないだろうが、この衣裳は戴けない」

 エドゥアルデさまは、両手でわたしの頬をはさんだ。わたしはびくつく。

 目が合う。

「見目のよい聖女でよかった。衣裳係をつれてきているから、かしましょう。あなたにぴったりのものをあつらえさせる。髪はこのままでもいいが、顔がはっきり見えるように結ったほうがいい。それにしても出物だった……クレアルはまったく、運がなかったな。だろう? ランベール」

 ランベールさんはちらっとこちらを見て、かすかに溜め息を吐いた。


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